第3章 人はなぜ貧乏するか(上)別題、人はどうすれば幸福を摑めるか
2 成功秘伝八ヶ条
以上の話の中から、私たちはどんなことを教えられるか、これを検討して見なければなりません。
第一は、この夫婦はひどい貧乏の中に居って、少しも貧乏に悩みを有(も)っていなかったことを先ず感じます。
第二は、人より多く働くという決心で、根(こん)かぎり努力したことです。
第三は、夫婦の仲がよかったこと。二人気を揃えて働き、折角のうどんも妻の言葉で、少しのこだわりもなく止めました。
第四は、世のため人のためになろうと念願していたことは、窮乏の中から消防夫にパンを提供したので分ります。
第五は、他の間違いに対して不平を思わず、パンを二度まで持って行きました。
第六は、成功しても成金気分など出さず、今に尚お冷酒と沢庵で正月を迎えていることです。
第七は、金を大事にしたことは、二銭五厘の金を押し戴いたのでも明(あきら)かです。
第八は、朝早く起きたことです。商売柄、当然とはいうものの、同業の人たちより屹(きっ)と早く起きたことと思われます。
もっと細かく調べたなら、更に挙ぐべきものがありましょうが、しかし以上の八ヶ条は、貧乏の泥沼から足を洗って向上の道へと進んで行く人の必ずなくてはならぬ重要資格であります。
人はなぜ貧乏するか、或は、人はどうすれば幸福を摑めるか――。米谷氏の努力談は、この問題に対して一応の解答を与えてくれたのですが、なおよく呑み込んでもらうために、次に詳しくお話をすることとします。
出典:『向上の道―生きる力 第二編』 佐藤義亮(1938・新潮社)
※原文は、旧字旧かな。新字新かなに改める。また、踊り字を正字にするなど一部表記を変える。
※佐藤義亮の著作権は消滅している。
佐藤義亮(さとう・よしすけ(ぎりょう))
明治11年(1878)-昭和26年(1951)
新潮社の創立者。