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『向上の道―生きる力 第二編』佐藤義亮(新潮社)13_02

第13章 今日の事は今日為せよ

   2 思い立ったが吉日

 何か事の起った場合、昂奮などせず、静かに落ちついていると、どうそれに処したらいいかという考えが水のような心境にポッカリ浮んで来るものです。それは「天」によって教えられたと言ってよいものですから、直ぐその通り実行しぐんぐん押し進めて行かなければなりません。
 が、決心をしたものの、実行は容易でないからと尻込みし、まァ明日の事にしようなどと一時をごまかしていると、折角の機会は逃げて行ってしまいます。
 私の知人が或る事業の資金を某氏から融通してもらおうと思い、交渉した時のことです。委細に事業の有望なことを語って、対手(あいて)の心を十分動かし得たという自信を得ましたが、愈々資金のことに入ろうとしたとき、ここで金の話までするのは、あまり調子に乗り過ぎはせぬか、厚かましいと取られはせぬか、などと考えると、急に心におくれが来て、金の事はこの次にゆっくり話そうと、言葉を濁して帰りました。
 それから二三日経って行くと、先方は至極冷淡で、この間の話には触れまいとする様子なので、がっかりしてしまって、そのまま引き下ったということでした。
 早く功を収めようと焦っては勿論いけないのですが、ものには潮時があります。潮のさしてくる凄まじい勢いに乗ってこそ事は成就するのですが、右の話のように自分から尻込みして、その潮の見る見る引いて行くのを指を啣(くわ)えて傍観していては、潮干狩のとき潮に残された章魚(たこ)のようなみじめさを見なければなりません。
 昔から、思い立ったが吉日といっています。日の吉凶を気にするおろかな迷信を利用して、イザやろうと決心した日が一番の大吉だというのは、妙味津々たるものがありますし、又、思い立った日に実行することが、物を成就させるという真理を含んでも居るのであります。

出典:『向上の道―生きる力 第二編』 佐藤義亮(1938・新潮社)

※原文は、旧字旧かな。新字新かなに改める。また、踊り字を正字にするなど一部表記を変える。

※佐藤義亮の著作権は消滅している。

佐藤義亮(さとう・よしすけ(ぎりょう))
明治11年(1878)-昭和26年(1951)
新潮社の創立者。

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