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『向上の道―生きる力 第二編』佐藤義亮(新潮社)14_03

第14章 取越し苦労に囚われるな

   3 厭な暗示は撥ね返せ

 それはひとり胃腸ばかりでなく、肺であれ、心臓であれ、一切の病気は半ば取越し苦労の製造でありますが、世間もまた取越し苦労を起させよう起させようと仕向けて来ます。たとえば、今年は何十年来の寒さで、感冒(かぜ)が大流行だなどと新聞がデコデコと書き立てるし(夏になると、今年は何十年来の暑さです……)、彼方此方でも感冒の話を聞かされ、寒さが怖くなって警戒しだしますが、この警戒はもう半分感冒にやられたと言ってもいいのです。その上、更に、
「どうもお顔色がよくないですな。悪い病気がはやりますからお気をつけなさい。」
 こんなことをいうのが、好意を示すつもりでいるお節介者に出会うと、いよいよ神経を起し、急に悪寒(さむけ)がし出して寝込んでしまう人があります。(お互に人の心の底に暗い翳を投げこむようなお節介は慎まなければなりません。)
 また、町を歩いていると、角々に『結核予防デー』などの看板がでていて、今まで気にしないでいた肺病が俄かに恐ろしく、道路に吐かれた痰が不気味になって来るとか、意外なことから厭な暗示を受ける場合が実に多いのであります。
 私たちは、こんな暗示を撥ねかえすだけの心の抵抗力がなければなりません。それには、自分は、暗示を受けて取越し苦労をするような弱いものでないと云うことを、幾度も幾度も自分に言って聞かせるのです。人間は本当に強いものであるという固い信念さえあれば、黴菌が怖くて逃げまわるようなことをしなくても済みます。

出典:『向上の道―生きる力 第二編』 佐藤義亮(1938・新潮社)

※原文は、旧字旧かな。新字新かなに改める。また、踊り字を正字にするなど一部表記を変える。

※佐藤義亮の著作権は消滅している。

佐藤義亮(さとう・よしすけ(ぎりょう))
明治11年(1878)-昭和26年(1951)
新潮社の創立者。

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