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『向上の道―生きる力 第二編』佐藤義亮(新潮社)14_04

第14章 取越し苦労に囚われるな

   4 勝つ勝つと思えば勝つ

「某市に住っている百六歳という老翁の許へ、六十一二の男がたずねて行って、長寿の秘訣を教えて下さいと言うと、六十になったばかりの者が、今から長寿はどうの、こうのと無駄なことを聞いて回るようでは、とても長生きはできないと言って極めつけられました。」
 これは、井上哲次郎博士から最近ある会で聞かされた話の一節でありますが、無駄なことを考え、余計なことを思い煩うなという戒めでありましょう。
 三百六十五日を一年とし、五十歳は人間の定命(じょうみょう)で六十一歳は還暦、七十歳は何だとか、様々のきまりがあるのですが、みな人間が勝手に拵えたものであります。それなのに、又一つ齢をとった、もうこんなに齢をとってしまっては駄目だなどと齢に囚われていると、まだまだ働ける人でも、本当に駄目になってしまいます。
 父も、兄も、五十歳で死んだので、自分も五十歳で死ぬものと決めこんだ人がありました。初めは軽く考えていたのが、だんだんその齢に近くなると取越し苦労がはげしく、とうとう仕事とも何も手につかなくなったのを、或る人によって愚かな迷いであることを教えられ、そのおかげで無事に笑って五十歳を迎えることができたそうです。もしあのままでいたら、本当に五十歳で目を瞑ったことでしょう。
 これと同じように、父が心臓で死んだからとか、自分の家には脳溢血の遺伝があるとか言って、それにひどい恐怖をもち、やがてその心臓病で或は脳溢血で死んで行ったという話はよく聞かされます。が、それを見て、やっぱり遺伝は争われないものだと決めてしまってはなりません。病気を恐れる心は、病気を呼ぶものであることを、はっきり知らなければならないのです。
 豊臣秀吉の言葉に、「負ける負けると思えば負ける、勝つ勝つと思えば勝つ」というがあります。秀吉が敵陣に攻め入る時、丹田より迸りでる力ある声で、勝つ! 勝つ! と自分に言って聞かせたさまが思いやられましょう。戦争や様々の仕事ばかりでなく、健康もまさにその通りで、自分は弱いと思うと弱くなり、強いと思えば強くなるのですから、人間は強いものだという信念を、しっかり摑んでいなけらばならぬというのであります。

出典:『向上の道―生きる力 第二編』 佐藤義亮(1938・新潮社)

※原文は、旧字旧かな。新字新かなに改める。また、踊り字を正字にするなど一部表記を変える。

※佐藤義亮の著作権は消滅している。

佐藤義亮(さとう・よしすけ(ぎりょう))
明治11年(1878)-昭和26年(1951)
新潮社の創立者。

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