第19章 子供の生活を理解せよ
3 兄と弟の順序
明治三十九年一月、乃木将軍が満洲から凱旋されたとき、名古屋駅で知人某氏夫妻が子供二人を連れて出迎えに来ていました。将軍はバスケットの中から林檎をだし、わざわざ自分で剥いて子供にやろうとしますと、弟の方が逸早く手を出したのです。将軍はそれを制して兄の方にやり、更に別のを剥いて、弟にやりました。そして、
「兄弟にはちゃんと順序があるから喃(のう)。」
と、夫婦に向って言われたそうであります。
私はこの言葉をあまねく世の親達に贈らなければなりません。なぜかというに、大抵の家庭は、長幼その序を誤っているからであります。即ち親は小さいものほど可愛いので、それを庇ってやりたく、謂ゆるひいきにするのです。兄弟喧嘩をし弟が泣いて兄を訴えますと、親はいきなり兄を叱って、にいさんの癖になぜ小さいものを虐めるのかと叱り、おやつをやる時など、小さなものから先きにして、早く食べたくてむずむずする兄の方を後にします。
すべてこの調子ですと、兄は、弟ばかり可愛がられるのだとひがみ、菓子など弟より少くもらったときは、両親のいないところで、弟をいためつけて奪いとり、それが分って叱られると、反抗的の目で親を見るようになります。そして弟の方は何をしても叱られないという気持ちから兄を侮り、目上を馬鹿にする驕慢児となってしまいます。これは実に怖ろしいことではありませんか。
だから、小さい時分から長幼の序をはっきりしなければならないのであります。
出典:『向上の道―生きる力 第二編』 佐藤義亮(1938・新潮社)
※原文は、旧字旧かな。新字新かなに改める。また、踊り字を正字にするなど一部表記を変える。
※佐藤義亮の著作権は消滅している。
佐藤義亮(さとう・よしすけ(ぎりょう))
明治11年(1878)-昭和26年(1951)
新潮社の創立者。