第13章 今日の事は今日為せよ
4 石の下の宝もの
こんな話があります。
昔、ドイツ連邦の或る街の大通りに、何者の仕業か、大きな石を置いてあることが翌朝になって発見されました。
「こんな物が道の真中にあっては、町の恥になる。」
通りすがりの人たちは、皆口々にこう言って、それを取り除けなければならぬと思うのですが、大勢の中には誰かやってくれるだろう、自分が手を出すまでもないと躊躇するものばかりで、とうとう石はそのまま一ヶ月あまり過ぎました。
すると、ある日、王様は人民を集めて演説されました。
「この石は余が置いたのである。誰か取除ける者があったら褒美をやろうと待ち構えていたが、一人も手を出すものがなかった。この石を動かすとその下から一枚の書き付けと一つの嚢(ふくろ)が出てくるのだ。紙には、石を除く者には、この嚢を与うと書いてあり、嚢の中には宝石入りの指環と金貨二十枚とが入れてあった。」
聞いている人たちは、みな驚いて後悔の顔を見合ったのであります。
善事をやろうと思いついたら、何の躊躇もなく実行した者には、金貨と宝石が与えられるというのは、ドイツの或る街の話ばかりでなく、「天」は人生のいたるところに、様々のたからものを蔵(かく)して、実行力のある人に与(や)ろうと待っているのであります。然るに、彼(か)のドイツの話のように、宝のあることに気がつかないばかりに躊躇し尻込みする人のどんなに多いことでしょう。人の幸不幸、成功不成功の分岐点はここにあると言ってもよいと思います。
だから私たちは、平生から、何でも即時実行する習慣をつけなければなりません。それには、まず小さな事から改めて行きたいのであります。
たとえば御飯時、お膳に向おうと思いながら、つい何かに心牽(ひ)かれてぐずぐずしたり、便所へ行きたくても読みかけの小説が終ってからなどと我慢しているようなことが、私たちの身辺に非常に多いのであります。
と云うと、そんな小さなことなど何うでもよいではないかと笑う人があるかも知れません。それはいかにも小さいことでしょう。が、食事時間の不規律は食欲を減らして健康を害(そこな)う種となるし、小便を我慢していると膀胱に悪い影響を及ぼします。否、それどころでなく、そういう心構えは、やがてその人を優柔不断の性格につくり上げ、重大事に当って断乎として実行する気力をなくしてしまうのであります。
これは実に恐るべきことではありますまいか。
だから、今日為すべきことは今日為せよ。明日に延ばしてはならぬ――この心構えを日常の生活のあらゆる点に及ぼして行くよう、ふかく戒めて実行したいと思うのであります。
出典:『向上の道―生きる力 第二編』 佐藤義亮(1938・新潮社)
※原文は、旧字旧かな。新字新かなに改める。また、踊り字を正字にするなど一部表記を変える。
※佐藤義亮の著作権は消滅している。
佐藤義亮(さとう・よしすけ(ぎりょう))
明治11年(1878)-昭和26年(1951)
新潮社の創立者。