出陣学徒壮行会(明治神宮外苑競技場)
〈東條内閣総理大臣〉
《ここに明治神宮外苑の聖域におきまして、征途に上らんとする学徒諸君の壮容に接し、所懐を申し述ぶる機会を得ましたることは、私(わたくし)の最も欣幸とする所であります。かつて、藤田東湖先生が正気(せいき)の歌を賦し、その劈頭に「天地正大の気、粋然として神州に錘(あつ)まる」と申されたのであります。唯今、諸君の前に立ち、親しく相見(あいまみ)えて私は、神州の正気粛然として今ここに集結せられておるのを感ずるものであります。諸君は胸中深く決する所あり、腕(うで)を撫して国難に赴く烈々たる気魄、まさに壮(さか)んなるものがあることを私は、その諸君の輝く眸(ひとみ)に、十分これを察しし得るのであります。》
若き諸君は今日まで皇国未曾有の一大試練期に直面しながら、なおいまだ学窓に止まり、鬱勃たる報国挺身の決意躍動して抑え難きものがあったことと在ずるのである。しかるに、今や皇国三千年来の国運の決する極めて重大なる時局に直面し、緊迫せる内外の情勢は一日半日を忽せにすることを許さないのである。
一億同胞が悉く戦闘配置につき、従来の行掛りを捨て、身を呈して各々その全力を尽くし、以て国難を克服すべき総力決戦の時期が正に到来したのである。御国の若人たる諸君が勇躍学窓より、征途に就き、祖先の遺風を昂揚し仇なす敵を撃滅しで皇運を扶翼し奉る日は来たのである。
大東亜十億の民を道義に基いてその本然の姿に復帰しめるために壮途に上るの日は来たのである。私はここに衷心よりその門出を御祝い申し上げる次第である。素よリ、敵米英においても、諸君と同じく幾多の若い学徒が戦場に立っているのである。諸君は彼等と戦場に相対し、気魄においても戦闘力においても必ずや彼等を圧倒すべきことを私は信じて疑わざるものである。申すまでもなく、諸君のその燃え上がる魂、その若き肉体、その清新なる血潮総てこれ、御国の大御宝なのである。この一切を大君の御為に捧げ奉るは皇国に生を享けたる諸君の進むべきただひとつの途である。諸君が悠久の大義に生きる唯一の道なのである。諸君の門出の尊厳なる所以は、実にここに存するのである。
《諸君の光栄ある今日の門出に際し、我々の祖先が我が子の初陣(しょじん)に当たり、一家一門うち揃うて祝い送ったと同様の心持ちをもちまして、我々一億同胞は心から敬意と感謝とをもって諸君の壮途を祝い??らんとするものであります。
願わくば青年学徒諸君、私は諸君が昭和の御代における青年学徒の不抜なる意気と必勝の信念とをもって護国の重責を全うし、後世に永く日本の光輝ある伝統を残されんことを諸君に強く期待し、かつこれを確信するものであります。而(しか)して我々諸君の先輩も亦、諸君と共に一切を挙げて皇国興隆の礎石(そせき)たらんことを深く心に期しているものであります。先人の歌に曰く「海潮波(うしおなみ) ながるるきわみ 皇国(すめくに)と おもいて行(ゆ)かね ますらをの伴(とも)」、懸軍万里*、御稜威を仰ぎ奉りて、皇道宣布の大御戦(おおみいくさ)に参加の光栄を荷わるる??の諸君が必ずやその重責を全うされんことを切に祈念して、諸君に対する私の壮行の辞(ことば)と致す次第であります。おわり。》
〈壮行の辞〉(大学学徒代表・奥井津二(慶応義塾大学医学部))
(略)
〈答辞〉(出陣学徒代表・江橋慎四郎(東京帝国大学文学部))
明治神宮外苑は、生等(せいら)多年武を練り、身を鍛え、皇国学徒の志気を発揚し来(きた)れる聖域なり。本日、この思い出多き地に於いて、近く入隊の栄(えい)を担い、戦線に赴くべき生等のため、???盛大なる壮行会を開催せられ、内閣総理大臣閣下、文部大臣閣下より、御懇切なる御訓示を忝(かたじけ)のうし、在学学徒代表より熱誠溢るる壮行の辞(じ)を恵与せられたるは、誠に無上の光栄にして、生等の面目、これに過ぐるものなく、衷心感激措く能はざるところなり。思うに大東亜戦争宣せられてより、是に二星霜、大御稜威(おおみいつ)の下(もと)、皇軍将士の善謀勇戦は、よく宿敵米英の勢力を東亜の天地より撃壤払拭し、その東亜侵略の拠点は悉く、我が手中に帰し、大東亜共栄圏の建設は、この確固として磐石の如き基礎の上に着々として進捗せり。
然れども、暴戻(?)飽くなき敵米英は今やその厖大なる物資と生産力とを擁し、あらゆる科学力を動員し、我に対して必死の反抗を試み、決戦相次ぐ凄愴なる戦局の様相は、日を追うて熾烈の度を加え、事態いよいよ重大なるものあり。時なるかな、学徒出陣の勅令公布せらる。予ねて愛国の衷情を僅かに学園の内外にのみ迸(ほとばし)らしめ得たりし生等は、ここに優渥なる聖旨を奉体して、勇躍軍務に従うを得(う)るに至れるなり。豈(あに)、感奮興起せざらんや。
生等今や、見敵必殺の銃剣をひっ提げ、積年忍苦の精進研鑚を挙げて悉(ことごと)くこの光栄ある重任に捧げ、挺身以て頑敵を撃滅せん。生等、もとより生還を期せず。在学学徒諸兄、また遠からずして生等に続き出陣の上は、屍を乗り越え乗り越え、邁往敢闘、以て大東亜戦争を完遂し、上(かみ)宸襟を安んじ奉り、皇国を富岳の寿き*に置かざるべからず。かくの如きは皇国学徒の本願とするところ、生等の断じて行(ぎょう)する信条なり。
生等謹んで宣戦の大詔を奉戴し、益々、必勝の信念に透徹し、愈々不撓不屈の闘魂を磨礪(?)し、強靭なる体躯を堅持して決戦場裡に投身(?)し、誓って皇恩の万一に報い奉り、必ず各位の御期待に背かざらんとす。決意の一端を開陳し、以て答辞となす。昭和18年10月21日、出陣学徒代表、東京帝国大学文学部学生・江橋慎四郎。
※実際に話されたものと書籍等の文章は表現や語句が異なっている部分、また誤りもいくつかある。
上記の《》部分は音声を確認して書き起こした。〈答辞〉は、音声を確認済み。
*は疑問ありの言葉。
下記は書籍のもの。
ここに明治神宮外苑の聖域において征途に上らんとする学徒諸君の壮容に接し、所懐を申し述べる機会を得たることは、私の最も欣快とする所である。かつて藤田東湖先生が正気の歌を賦して、その劈頭に「天地正大の気、粋然として神州に錘まる」と申されたのである。只今諸君の前に立ち親しく相見えて私は神州の正気粛然として今ここに集結せられているのを感ずるものである。諸君は胸中深く既に決する所あり、腕を撫して国難に赴く烈々たる気魄まさに旺[壮]なるものがあるのを私は諸君の輝く眸に十分御察しすることが出来るのである。
若き諸君は今日まで皇国未曾有の一大試練期に直面しながら、なおいまだ学窓に止まり、鬱勃たる報国挺身の決意躍動して抑え難きものがあったことと在ずるのである。しかるに、今や皇国三千年来の国運の決する極めて重大なる時局に直面し、緊迫せる内外の情勢は一日半日を忽せにすることを許さないのである。
一億同胞が悉く戦闘配置につき、従来の行掛りを捨て、身を呈して各々その全力を尽くし、以て国難を克服すべき総力決戦の時期が正に到来したのである。御国の若人たる諸君が勇躍学窓より、征途に就き、祖先の遺風を昂揚し仇なす敵を撃滅しで皇運を扶翼し奉る日は来たのである。
大東亜十億の民を道義に基いてその本然の姿に復帰しめるために壮途に上るの日は来たのである。私はここに衷心よりその門出を御祝い申し上げる次第である。素よリ、敵米英においても、諸君と同じく幾多の若い学徒が戦場に立っているのである。諸君は彼等と戦場に相対し、気魄においても戦闘力においても必ずや彼等を圧倒すべきことを私は信じて疑わざるものである。申すまでもなく、諸君のその燃え上がる魂、その若き肉体、その清新なる血潮総てこれ、御国の大御宝なのである。この一切を大君の御為に捧げ奉るは皇国に生を享けたる諸君の進むべきただひとつの途である。諸君が悠久の大義に生きる唯一の道なのである。諸君の門出の尊厳なる所以は、実にここに存するのである。
諸君の光栄なる今日の門出に接し、我々の祖先が我が子の初陣に当たり、一家一門揃って祝い送ったのと同様の心持をもって、我々一億同胞は心から敬意と感謝とをもって諸君の壮途を祝い奉らんとするものである。
願わくば青年学徒諸君、私は諸君が昭和の御代における青年学徒の不抜なる意気と必勝の信念とをもって護国の重責を全うし、後世に永く日本の光輝ある伝統を残されんことを諸君に期待し、かつこれを確信するものである。而して我々諸君の先輩も亦、諸君と共に一切を捧げて皇国興隆の礎石たらんことを深く心に期しているものである。先人の歌に曰く「海潮波ながるるきはみ皇国とおもひて行かね、ますらをの伴」と懸軍万里、御稜威を仰ぎ奉りて、皇道宣布の大御戦に参加威の光栄を荷わるる諸君が必ずやその責任を全うせられんことを切に祈念して、諸君に対する私の壮行の辞と致す次第である。
[参考]
「日本ニュース 第177号」(NHKアーカイブス)※学徒出陣は6分辺りから。
文部省主催出陣学徒壮行会実況 [YouTube](於 明治神宮外苑競技場)