『チーズとうじ虫―16世紀の一粉挽屋の世界像』カルロ・ギンズブルグ、杉山光信訳(みすず書房)
新装版2021年
360頁
目次(収録作品)
1 メノッキオ
2 村
3 最初の審問
4 「悪魔に憑かれている」?
5 コンコルディアからポルトグルアロへ
6 「高い地位にある方々に対して存分に語る」
7 古いものを残した社会
8 「かれらは貧しい人びとからむさぼりとる」
9 「ルター派」と再洗礼派
10 粉挽屋、絵師、道化
11 「これらの見解を、私は自分の脳味噌から引き出したのです」
12 書物
13 村の読者たち
14 印刷されたページと「空想的な見解」
15 行き止まり?
16 処女たちの神殿
17 聖母の葬儀
18 キリストの父
19 最後の審判の日
20 マンデヴィルの旅行記
21 ピグミーと人食い人種
22 「自然の神」
23 三つの指輪
24 書字の文化と口頭伝承の文化
25 カオス
26 対話
27 神話的なチーズ、現実のチーズ
28 知の独占
29 『聖書の略述記』
30 比喩の機能
31 「主人」「貨幣」「労働者」
32 ひとつの仮説
33 農民の宗教
34 魂
35 「わかりません」
36 ふたつの精神、七つの魂、四つの元素
37 ある観念の軌跡
38 矛盾
39 天国
40 ある新しい「生き方」
41 「司祭を殺すこと」
42 「新世界」
43 審問の終了
44 裁判官への手紙
45 修辞の綾
46 最初の判決
47 牢獄
48 故郷への帰還
49 告発
50 ユダヤ人との夜の対話
51 二度目の裁判
52 「空想」
53 「虚栄と夢想」
54 「偉大なる神よ、全能の崇高なる神よ」
55 「もし十五年前に死んでいたなら」
56 二度目の判決
57 拷問
58 スコリオ
59 ペレグリノ・バロニ
60 ふたりの粉挽屋
61 支配者の文化と従属階級の文化
62 ローマからの書簡
1583年9月、イタリア東北部、当時はヴェネツィア共和国本土属領のフリウリ地方において、ひとりの粉挽屋が教皇庁により告訴された。名をドメニコ・スカンデッラといい、人びとからはメノッキオと呼ばれていた。職業柄、白のチョッキ、白のマント、白麻の帽子をいつも身に着け、そして裁判の席にあらわれるのもこの白ずくめの服装だった。
「各人はその職業に従って働く。あるものは身体を動かし骨折って働き、あるものは馬鍬で耕す、そして私はといえば神を冒瀆するのが仕事だ」
「私が考え信じるところでは、すべてはカオスである、すなわち土、空気、水、火のすべてが渾然一体となったものである。この全体は次第に塊になっていった。ちょうど牛乳からチーズができるように。そしてチーズの塊からうじ虫が湧き出るように天使たちが出現したのだ」
かく語り、二度にわたる裁判を経て焚刑に処せられたメノッキオとは何者か。異端審問記録ほか埋もれた史料を駆使しつつ地方農民のミクロコスモスを復元、民衆文化の深層にスリリングに迫ったギンズブルグ史学の初期傑作。
解説「ずれを読み解く——ギンズブルグの方法について」(上村忠男)を付す。出典:みすず書房公式サイト