2010年3月20日初版発行
247頁
著者は、読売新聞論説委員。朝刊一面コラム「編集手帳」の執筆者。
著者が「ネタ帳」に集めたしゃれた言葉や気の利いた文章や文句を豊富に引用し構成して書かれたエッセー集。
33のエッセーが収められている。
ダジャレ、ジョーク、日記、エッセー、小説、自伝、川柳、詩、短歌、歌詞、名言等々を引用し短いエッセーを組み上げている労作。
筆者は、書名から名文を紹介し論評した本だと思い、手にとったのだが、全くそういったものではない。全体的には、ジョークの類が多い。
著者も「はじめに」で「ここでいう名文とは〈心をくすぐる言葉、文章〉のことで、世間一般の定義よりはいくらが幅が広いかも知れない。」(p.7)と「言い訳」している。
著者とは感性が異なるのか、笑いのツボが違うのか、「しゃれた」「気の利いた」と感じるものは、少なかった。
笑ったのは、シュリーマンの話。
(p.30~)[]内は筆者。
トロイの遺跡の発見者[シュリーマン]は、英語、フランス語、オランダ語など欧州の十か国語をほとんど独学で習得し、自在にあやつった人である。
彼は〈どんな外国語でもひじょうにらくに覚えられる習得法を見つけた〉そうで(略)その方法を著書のなかで披露してくれている。このかんたんな方法というのは、なによりもまずこうである。声をだして多読すること、短文を訳すこと、一日に一時間は勉強すること、興味あることについていつも作文を書くこと、その作文を先生の指導をうけて訂正し暗記すること、まえの日に直されたものを覚えて、つぎの授業に暗記すること。
―シュリーマン「古代への情熱」(佐藤牧夫訳、角川文庫)
この「かんたんな方法」を実践しシュリーマンは、15ヶ国語を完全にマスターしたそうだ。しかし、これは嘘らしい。勉強したのは嘘ではないだろうが、だいぶ話を盛っている模様。
本書、試みはよいので同じスタイルで他のひとにも書いて欲しい。
あと、こまかい事だが気になった一点。
(p.27)
【あい】(愛)に始まって【をんな】(女)に終わるもの、それは戦前の辞書、【あい】(愛)に始まって【わんりょく】(腕力)に終わるもの、それは戦後の辞書である。
―高見順(見坊豪紀「ことば さまざまな出会い」、三省堂)
(ここは著者の言ではなく、引用部分だが)
これは、ほんとうだろうか。
戦後の辞書でも「を」か「ん」が最後である。だから、「腕力」が最後だというのはおかしい。「わ」の項の最後が「腕力」の辞書は、あるだろう。それから、辞書は【あい】からは始まらない。百歩譲って【あい】でも、本当に両者の辞書で「愛」が最初だったのだろうか。手持ちの四、五冊の辞書を確認すると【あい】で「愛」が最初のものは一冊で、ほかの先頭は、「合」や「相」や「哀」だった。