『心の概念』G・ライル(ギルバート・ライル)、坂本百大・井上治子・服部裕幸訳(みすず書房)
1987年
512頁
目次(収録作品)
序
第1章 デカルトの神話
1 公式教義 the official doctorine
2 公式教義の不合理性
3 カテゴリー錯誤の源泉
4 歴史的注釈
第2章 方法を知ることと内容を知ること
1 まえがき
2 理知intelligenceと知性intellect
3 方法を知ることknowing howと内容をしることknowing that
4 主知主義者の説話の動機
5 「私の頭の中」in my head
6 方法の知識に関する積極的な説明
7 理知的能力と習慣
8 理知の行使
9 理解と誤解
10 独我論
第3章 意志
1 まえがき
2 意志作用の神話
3 「意志による」voluntaryと「意志によらない」involuntaryの区別
4 意志の自由
5 機械論という憑きもの
第4章 情緒
1 まえがき
2 感情と性向
3 性向と動揺
4 気分moods
5 心の動揺agitationsと感情feelings
6 楽しみenjoyingと欲求wanting
7 動機の規準
8 行為の理由と原因
9 結論
第5章 傾向性dispositionsと事象occurrences
1 まえがき
2 傾向性言明の論理
3 心的能力と性癖tendencies
4 心的事象
5 達成achievements
第6章 自己認識
1 まえがき
2 意識
3 内観introspection
4 特権的接近によらない自己認識
5 あらかじめ吟味されてはいない発言unstudied talkにおのずから現れるもの
6 自己the self
7 「私」という概念の体系的逃避性
第7章 感覚と観察
1 まえがき
2 感覚
3 感覚与件説Sense Datum Theory
4 感覚と観察
5 現象論Phenomenalism
6 補遺
第8章 想像力
1 はじめに
2 想い描くことpicturingと見ることseeing
3 特別な身分をもつ画像に関する理論
4 想像することimagining
5 ふりをすることpretending
6 ふりをすることpretending、空想することfancying、イメージを描くことimaging
7 記憶memory
第9章 知性 Intellect
1 はじめに
2 知性の区分
3 理論を構築すること、所有すること、利用すること
4 認識論の用語の正しい適用法と誤った適用法
5 言うことsayingと教えることteaching
6 知性の優先性the primacy of the intellect
7 認識論
第10章 心理学
1 心理学のプログラム
2 行動主義Behaviourism
ライルの《心の概念》の刊行(1949)は、〈戦後の哲学におけるきわめて重要な事件〉(G.J.ワーノック)であった。これと前後して出版されたウィトゲンシュタインの《哲学探究》
とともに、2冊の書物が20世紀後半の哲学に与えた影響ははかり知れない。本書は、いわゆる日常言語学派の哲学的方法の確立の宣言であり、それはウィトゲンシュタインの〈言葉の意味はその使用である〉という洞察の展開ともいえよう。ライルは、この方法によってデカルト以来の心身二元論の哲学的伝統を根底的に批判し、心にかんする新しい概念地図を提示する。
ライルは、心を身体と異なる存在とする二元論を〈機械の中の幽霊のドグマ〉とよぶ。そして、それが心の概念についての根本的な誤解、〈カテゴリー・ミステイク〉にもとづくことを明らかにし、誤謬の源泉をわれわれの日常の用語法の中に見出す。たとえば、〈知る〉という表現を分析して、方法を知ることと内容を知ることの二つの知り方を指摘し、従来の知識論の図式を転換して見せるのである。
〈心の科学〉がコンピュータ・サイエンスを引きこみながら、認知科学という名称を得て、科学としての新しい展開をめざしつつあるいま、ライルの哲学はその輝きを一層ましつつある。
出典:みすず書房公式サイト