『[復刻版]中等歴史 東亜及び世界篇〈東洋史・西洋史〉』文部省(ハート出版)
2022年
232頁
目次(収録作品)
序説 皇国と東亜及び世界
皇国の尊厳
国民科歴史学習の意義
大東亜の地域と民族
大東亜建設の使命
前編
一 古代のアジア
(一)支那の黎明
(二)周の文化
(三)古代インドと仏教
(四)古代の西南アジア
二 アジア諸民族の交渉
(一)支那の統一と北辺・西域
(二)北方民族の活動と南方各地
三 アジア諸文化の興隆
(一)隋・唐と東・北アジア
(二)唐の文化
(三)サラセン文化と南方文化
四 アジア諸民族の活躍
(一)北方民族の進出
(二)宋及び遼・金の文化
(三)蒙古民族の発展
(四)漢民族の復興
(五)回教諸民族と南方諸国
五 近世の東亜
(一)清の興起とその盛時
(二)欧米の東亜侵略
(三)清の衰亡
後編
一 上古の欧洲
(一)ギリシャ
(二)ローマ
(三)ギリシャ・ローマの文化
二 欧洲社会の成立
(一)ゲルマン民族の活動
(二)封建制度とキリスト教の勢力
(三)東欧の形勢
(四)十字軍とその影響
(五)西欧に於ける王権の確立
三 欧洲の転換
(一)新航路の開拓
(二)学芸復興
(三)宗教改革とその影響
四 近世諸国家の発達
(一)スペイン・オランダの興隆
(二)フランスの隆運
(三)イギリスの発展
(四)アメリカ合衆国の独立
(五)ロシア・プロシアの勃興
五 欧洲の革新
(一)啓蒙思想
(二)フランス大革命
(三)ナポレオン時代
(四)産業革命
六 欧米の世界政策
(一)欧米の情勢
(二)列強の世界政策
本書の「序説」を読む限り、本書は、大東亜戦争下という状況が生み出した「皇国による東亜の解放と世界の平和建設」という歴史観に基づいて編纂された国定教科書としか思えないだろう。 ところが、本書本文に触れてみれば、読者はその文体も思想も、序説で求められている姿勢とは無縁、というより正反対の、東洋・西洋両史における、現代でも通用する公正で学問的な記述に満ちていることがわかる。この差異に、筆者は当時の国策と、それに追従しなかった教科書執筆者たちの良識を読み取る。
さらに本書の特徴は、その言葉自体は使われていないが「アジア史観」というべき視点が打ち出されていることである。実は「東洋史」という概念は、明治維新以後の日本で確立されたものだ。しかし、「東洋史」として、西洋史とは異なる地域の歴史をひとくくりに教科としてまとめるならば、そこにはアジア全域が含まれるべきであるのだが、実際に扱われていたのはほとんど中国を中心とする東アジアだけであり、南アジア、西アジア史は軽視されがちだった。しかし、本書は西欧史に対峙し、全アジアの歴史を東洋史として扱おうとする姿勢が明示されている。
後半の西洋史編は、いくつかの表現を変え、この時点では明らかではなかった事実や解釈を多少変更すれば、このまま現代の学校でも何ら問題なく使えるのではないか。
出典:ハート出版公式サイト