『精神・自我・社会』G・H・ミード、山本雄二訳(みすず書房)
2021年
480頁
〈ミードの思想は1900年以来、シカゴ大学での講義を通して洗練されてきた。その講義の名は広く知られ、かつ大きな影響力を持っていたあの「社会心理学」である。この講義には毎年多くの学生が出席し、その関心も心理学、社会学、言語学、教育学、博愛主義、哲学とさまざまであった。[…]ミードの考えがいかに多くの学生に衝撃を与えたかは多くの本が証言するとおりである。[…]講義をとおして出席者は自分の人生を知的なものにしようとし、意味のあるものにしようとしてきたのだった〉
(チャールズ・W・モリス「はじめに」より)ミードによれば、精神も自我も社会的現象である。この命題を基礎にミードの講義は、進化論、身体、意識、経験、言語、普遍性、民主主義、経済、宗教、教育、共感、優越感、愛国心とあらゆるものに及び、さらに理想の社会への道を阻むものを問う。人間を人間たらしめている条件とは何か、人間社会の成立と発展の条件とは何かをめぐるミードの思索は、ほかに類をみない。
ミードは生涯その思想を著書にまとめることをしなかったが、この社会心理学講義は速記録をもとに『精神・自我・社会』としてまとめられ、日本でもいくつかの翻訳によってながく読み継がれてきた。本書はこの古典の明解で新たな翻訳である。この新訳によって読者は、ジェスチャー概念を軸に行為の身体性と社会性を一挙にとらえる独創性と、個人から出発するあらゆる思想的傾向の誤謬を乗り越える思考のダイナミズムとを、誤解なく見ることができるだろう――100年前の白熱講義に出席しているような知的興奮とともに。出典:みすず書房公式サイト
目次(収録作品)
はじめに(チャールズ・W・モリス)i
解説(チャールズ・W・モリス)v
第1部 社会的行動主義の観点
第1章 社会心理学と行動主義
第2章 態度の行動主義的意義
第3章 ジェスチャーの行動主義的意義
第4章 心理学における並行説の登場
第5章 並行説と「意識」のあいまいさ
第6章 行動主義のプログラム
第2部 精神
第7章 ヴントとジェスチャー概念
第8章 模倣と言語の起源
第9章 音声によるジェスチャーと意味を持つシンボル
第10章 思考、コミュニケーション、意味を持つシンボル
第11章 意味
第12章 普遍性
第13章 内省的知性の性質
第14章 行動主義、ワトソン主義、反射的反応
第15章 行動主義と心理学的並行説
第16章 精神とシンボル
第17章 精神と反応および環境との関係
第3部 自我
第18章 自我と身体
第19章 自我生成の背景
第20章 ごっこ遊び、ゲーム、一般化された他者
第21章 自我と主観的なもの
第22章 「I」と「me」
第23章 社会的態度と物理的世界
第24章 社会生活プロセスが個人への移設されたものとしての精神
第25章 自我の二局面としての「I」と「me」
第26章 社会的状況における自我の認識について
第27章 「I」と「me」の貢献
第28章 創発的自我の社会的創造性
第29章 自我の個人理論と社会理論との対比
第4部 社会
第30章 人間社会の基礎――人間と昆虫
第31章 人間社会の基礎――人間と脊椎動物
第32章 身体・共同体・環境 260
第33章 思考とコミュニケーションの社会的基盤と機能
第34章 共同体と制度
第35章 社会活動における「I」と「me」の融合
第36章 民主主義と社会における普遍性
第37章 宗教的および経済的態度についてのさらなる考察
第38章 共感の特質
第39章 抗争と統合
第40章 社会的組織における人格と理性の機能
第41章 理想的社会の発展に対する障害と展望
第42章 要約と結論
補論
I 行動におけるイメージ喚起の機能
II 生物学的個人
III 自我と内省プロセス
IV 倫理学断章