『無政府社会と法の進化―アナルコキャピタリズムの是非』蔵研也(木鐸社)
2008年
264頁
本書は,無政府社会の可能性とその秩序を生物学におけるESS(進化安定戦略)として大胆に構想してみせる。また著者は議論を開かれたものにし,本書を手掛りに無政府社会への賛否や更なる疑問に導かれるよう読者を誘う。
出典:木鐸社公式サイト
目次(収録作品)
1 無政府主義
アメリカの無政府主義
「資本主義」の含むもの
無政府への戦略と寛容の精神
三つのリバタリアニズム
最小国家を目指すべきか,それとも無政府社会なのか?
多様な意見の違いを超えて
2 前提1 進化論と利己的遺伝子
利己的遺伝子
利他的行動の進化
感情の進化:第一次的意思決定
人権をゲーム理論的に定義する
積極的人権と利他主義
3 前提2 自由主義の経済効率性
夜警国家観の成立とレッセ・フェール
市場制度の効率性
計画経済の貧困
市場主義は民主主義とは異なる
市場の効率性は功利主義とも違う
無政府主義の現在位置:警察と司法の民営化
道路の民営化
川や湖,堤防の私有化
電波の利用
環境問題
4 現代国家と裁判制度
刑事法制度
刑事罰の意義
理念別に適切な量刑は異なる
進化論的説明
未遂と社会不安
自由刑を中心とした刑罰
民事法制度と刑事法制度
近代以前の法制度
5 警備保障会社による治安の維持
警備保障会社
人身の自由と令状主義
個別予防的視点
犯罪の損害保険と適切な量刑
民事訴訟における警備会社の役割
暴力団は警備会社となるか
警備会社の準拠する法体系と正義
警備会社の規模はどの程度か
人間の正義感の多様性と警備会社の政党化
警備会社による独裁国家の出現と社会の安定性の問題
6 警備会社と契約しない個人
不法行為による損害賠償請求権の譲渡
犯罪者が契約した警備会社を持たない場合
アパラチアの争い
親がその子どもを殺した場合
孤独な個人に対する犯罪
7 紛争仲裁会社による裁判と法の私有化
仲裁会社
迅速な裁判の要請
法の進化
多元的法制度:序論
多元的法制度と死刑の存廃
多元的法制度と麻薬規制
多元的法制度と自白の証拠能力
正義に対する入札の是非
外国人との間の裁判について考える
功利主義再論
被害者による刑の選択
刑務所の維持費用
刑務所を廃止して監視労働を要求する
法の多元化による非効率性
8 国家なき社会における人権保障
憲法の存在しない社会と動物の権利
国家対犯罪者という対立図式の解消
無実の被疑者への完全な損害賠償
違法収集証拠
無政府社会での個人としての差別
大企業と独占資本
モダン・タイムス,あるいは会社人間
企業や大学,その他の集団
無政府社会は「自由」な社会になるのか?
9 国際法および国防
警備会社は非領域国家なのか
国防活動の公共性がもつディレンマ
他国からの侵略と国内状況
軍隊を持つ警備会社
損害保険会社による防衛
企業の宣伝や財団による国防
付論1 犯罪の量刑提言と応報感,一般予防
犯罪者の能力の差の存在
付論2 概念としての「強制」と「不法」の感覚
「強制」の意味
物理力による強制と心理的な強制
「不法」の感覚の進化の社会厚生的説明
正義の入札は強盗行為なのか?