
『三島由紀夫 生と死』ヘンリー・スコット・ストークス、徳岡孝夫訳(清流出版)
1998年11月26日初版発行
390頁
定価:2,200円(税込)
目次(収録作品)
対談 三人の友―三島由紀夫を偲んで(ドナルド・キーン、徳岡孝夫、[構成]ヘンリー・スコット=ストークス)
序章 個人的な記憶
第1章 最後の一日
第2章 生い立ち[1925-39年]
第3章 遍歴時代[1940-49年]
第4章 四つの河[1950-70年]
終章 死のあとに
著者は、三島と親交があったイギリス人ジャーナリスト。(1938-2022)
本書は、『三島由紀夫 生と真実』(1985刊)の増補改訂版。
三島との親交の回想、また、『仮面の告白』『豊饒の海』などの作品を題材に三島の人生や思想を論じている。
第1章は、本書に何の断りもないが、「三島事件」を描いた小説になっている。下記に一部を引用する。
三島を研究する人は必読。
(p.57-p.58)
三島は四人をうしろに退らせ、前に出て再び刀を振りかぶった。小賀は、三島の鞄から出した短刀を持って、総監のそばに立った。それが彼に命令されていた位置である。
「開けろ」
「どうしたんだ。開けろ」
自衛官らは、なおも叫んだ。体当たりするとバリケードが崩れ、ドアが半ば開いた。原一佐を先頭に、下士官を含む数人が総監室になだれ込んだ。
「出ろ!」
三島は再び叫んだ。だが、誰も動かない。
三島は刀を振り下ろした。はじめて自衛官らは後退った。それでも陸佐一人と数人の陸曹は、なおも三島に肉迫しようとした。
「出ろ、出ろ、出ろ!」
いきなり三島は攻撃した。斬りつけてきた。退こうとした陸佐は背中を斬られ、思わず腕を上げると、その腕も斬られた。三島めがけてとびかかろうとした陸曹は、右手首が落ちるほどの深傷を負った。
「出ろ!」
三島は叫びつづける。目に狂気の光が見えた。
[関連]
『三島由紀夫 生と真実』(1985・ダイヤモンド社)
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