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『ひとたばの手紙から』宇多喜代子(角川ソフィア文庫)

『ひとたばの手紙から―戦火を見つめた俳人たち』宇多喜代子(角川ソフィア文庫)

2006年11月25日初版発行
237頁



それは、硫黄島で戦死した日本兵の遺品であるひとたばの手紙を、アメリカ人の一女性から託されたことから始まった…。一少女として経験した戦争体験を綴るとともに、俳人たちが戦争といかに向き合い、いかに詠んだかをつぶさに検証する。風化させてはならない戦争の記憶を、俳壇を代表する女性俳人・宇多喜代子が、渾身の思いを込めて次世代へ語り継ぐ。

本書カバーより


著者は、俳人。現代俳句協会会長(当時)。

本書は、先の大戦下の俳人たちの句作を随筆風に論じたもの。また、分量は少ないが、著者の戦争体験も語っている。

筆者は、上記のカバーの説明と書名から、託された日本兵の遺品の手紙を届ける内容のノンフィクションだと勘違いした。それについては、プロローグとエピローグに数ページ書かれているだけである。

恐らくほとんど知られていない戦時下の句作を論じるという試みは、すばらしい。ただ、論評よりも筆者には、著者の戦争体験のエピソードの方が興味深かった。

また、本書の注は恣意的でよくない。注すべき所に注せず、特に必要ないものに注をほどこしている。さらに、間違いも見られる。

[筆者注]
(p.7)硫黄島(いおうじま)

硫黄島(いおうとう)が正しい。

(p.40)
〔中共軍との戦いには、しばしば「何々しつくす」という掃討戦がとられており、「殺しつくす、焼きつくす、奪いつくす」(三光作戦など)(略)〕

歴史的事実のように言っているが「三光作戦」というものは存在しない。

(p.40)
〔日本で「満州事変」「日中戦争」「太平洋戦争」と区別して呼んでいる昭和の戦争を、中国ではまとめて「十五年戦争」と呼んでいる。たしかに、昭和六年の柳条湖の事件から二十年の日本降伏までは通して十五年である。〕

中国が「十五年戦争」と呼んでいるというのは、聞いたこともないし調べても見当たらない(中国は「抗日戦争(8年)」などと呼んでる)。それに、柳条湖事件から日本降伏(ポツダム宣言受諾)までは、15年ではなく、13年11ヶ月である。翌月の戦艦ミズーリでの降伏文書の調印まで伸ばしても約14年である。なぜこんな認識違いをしているのか奇異。

(p.224)本書註
〔189従軍慰安婦
兵士の性欲を発散させるために、性の道具として強制連行された女性たち。特に朝鮮やフィリッピンなどの植民地の女性が多かった。〕

従軍慰安婦という呼称はない。強制連行の事実はない[参考]。また、この文章では、慰安婦は朝鮮人やフィリピン人などで主に構成されていた、と解されてしまう。意図的に日本人(内地人)も多くいたことを伏せているように思える。酷い注である。

(p.236)本書註
〔209特攻隊
(略)飛行機には弾薬が満載され、帰還用の燃料も積まれていなかった(略)〕

いわゆる特攻機の「片道燃料」というものだが、筆者が知る限り当事者で特攻機でそのようなことがあったという証言は見たことがない。一方、燃料は満タンだったという証言はいくつもある。

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