『アメリカに問う大東亜戦争の責任』長谷川熙(はせがわ・ひろし)(朝日新書)
2007年8月30日初版発行
195頁
著者は、元朝日新聞記者でフリーの記者。
敗戦時、12歳であった著者が自身の戦争体験を回想し、考察するという内容。
文章がすこし流れが悪く、また全体の構成的にも散漫で読みやすくはない。
731部隊が細菌兵器などを開発し、捕虜に対し人体実験を行った、という内容(p.131)を歴史的事実のように記しているが、これは今も真相は不明な部分が多いもので、そのように書くべきでない。(勿論、筆者の想像とか推測などと断って論ずるのは問題ない)
太字強調は引用者。
731部隊
旧日本軍の特殊部隊で、正式名は「関東軍防疫給水部」。旧満州(現中国東北部)ハルビン近郊の平房に設置された。ペストやコレラによる細菌兵器の開発にかかわり、実際に使用したとされる。「マルタ」と呼んだ中国人やロシア人の捕虜らに、伝染病感染や凍傷などの人体実験を繰り返し、多くの犠牲者を出したと言われている。出典:コトバンク(朝日新聞掲載「キーワード」)
上記引用のように朝日新聞の説明でも歴史的事実とはしていない。
原爆攻撃がナチスの所業レベルの非人道的なものであることや西洋文明の野蛮を指摘しているところはよい。
(p.130)
[]内は筆者。原爆投下地の選定を巡るグローブス少将 [原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」を指揮した人物] のこだわりの性格は一点においてナチス・ドイツのユダヤ人虐殺、そしてレーニン、スターリン時代、毛沢東時代、ポル・ポト時代のソ連、中国、カンボジアのの非社会主義要素大量虐殺のそれとも変わらないように少年 [著者を指す] には思える。……
十九世紀から二〇世紀にかけてドイツの医学は世界最高水準とみなされ、欧米諸国、日本などから留学生が集中した。ナチス時代にその医学先端集団から人体実験犯罪が発生した。しかし、より理想的な一〇〇万人単位の人体実験 [原爆攻撃のこと] をしようとしたグローブス少将ら米国の核技術先端主義と理想的な実験材料を欲したナチス・ドイツの関係医師・医学者たちはどこが異なるのか、と思う。
(p.173-p.174)
思えば、連合軍、そして三国同盟の相手のドイツ、イタリアが属した西洋は、世界規模の血腥い文明だった、と少年は思う。いうまでもなく世界史への西洋の貢献は否定できるはずもない。……
しかし、遡れば、人と獣を競技場で戦わせて見物するというローマの残忍性、十一世紀末から十三世紀にかけて幾度となく現在のパレスチナ方面を襲い、殺戮、略奪をおこなったという十字軍、西洋の地域内のことではあるが中世から近代にかけて猖獗した魔女裁判、そして全世界にわたる侵略と植民地化、その専横支配と人種差別、加えて大規模な黒人奴隷売買がこれと並行した。……南北アメリカ、オーストラリアなどでの原住民の大虐殺もナチスのユダヤ人虐殺、旧ソ連などでの非社会主義要素の虐殺と同様にこの文明の野蛮性の現れの一環ではないのか、と少年は考えるほかない。そして、調べるほどに、いずれの現象にも自身の主義、理念、文化を絶対化し、異質を否定するという共通点が貫いていることが分ってくる。……人体実験を極大化してまで根こそぎ破壊手段の高度化に邁進しようとした米国の原子爆弾開発投下史も、自身を絶対視するこの衝動の延長線上にあるのだろう。