『広辞苑の嘘』谷沢永一(やざわ・えいいち)・渡部昇一(わたなべ・しょういち)(光文社)
単行本・ハードカバー
2001年10月30日初版発行
307頁
著者の谷沢永一は、文芸評論家、書誌学者。渡部昇一は、英語学者、評論家。
書名通りの本。
岩波書店の『広辞苑』における語句の間違いや偏った説明を批判している。
矢沢がひとつのセクション述べたら、渡部がひとつセクション述べ、それを交代交代、繰り返すという構成になっている。
満州事変、通州事件、南京事件などの説明もあり歴史の勉強にもなる。
『広辞苑』の成り立ち、岩波書店の紙の特配の話などは筆者は知らなく興味深かった。
また、人権について述べている箇所(p.118~)は、正しい重要な指摘である。
それから、渡部の「右翼と左翼は同じ」(p.248~)とうい指摘も本質をつくものである。
辞書にはスペースの問題もあり難癖的な指摘も散見されるが、全体的にはよい本である。
現在でも一読の価値がある。
ただ、文章を渡部昇一が書いたとは思えない。インタビューのようなことをしてゴーストライターが書いたものか。犯罪件数の出典を雑誌「SAPIO」から採っている(p.144)のは奇異である。渡部はこのようなことはしないだろう。
尚、「平壌と台北に帝大を作って」(p.196)は、平壌(ピョンヤン)ではなく「京城(ソウル)」の間違い。
ところで、『広辞苑』(第五版)には、間違いがあるのでついでに記しておく。
なちぐろ【那智黒】
(和歌山県那智地方に産出したからいう)黒色のとくに硬質な粘板岩。試金石、碁石、硯石に用い、浜の小石は庭の敷砂利とした。
と書かれているが、産出地は三重県熊野市神川町で「和歌山県那智地方」ではない。