スポンサーリンク

『記憶喪失になったぼくが見た世界』坪倉優介(朝日文庫)

『記憶喪失になったぼくが見た世界』坪倉優介(朝日文庫)

2011年1月30日初版発行
261頁




本書は『ぼくらはみんな生きている』(2003・幻冬舎文庫)を改題した改版。
初出は『ぼくらはみんな生きている』(2001・幻冬舎)。

著者は染色家。

18歳の時に、バイク事故で意識不明の重体に陥るが、奇跡的に目覚める。が、著者には重度の記憶障害が生じてしまっていた。
事故後の日々を著者が思い起こし日記のようにつづった作品。
また、当時の状況や心境などを振り返った著者の母親の文章が章ごとにある。

記憶喪失というと、映画やドラマで描かれる設定を漠然とイメージするが、本書を読むとそのイメージは一変する。それらの設定がいかに物語をつくるための都合のよく作られたものであるかに気付かされる。

両親や友人の事がわからないだけではない。人というもの、建物というもの、自動車・自転車・植物・動物、あらゆるものが何なのかわからない。
読み書きも忘れている。靴ひもの結び方も忘れている。ものを噛んで飲み込んで「食べる」ということも分からない。味も忘れていて米の味もチョコレートの味もみんな初めての経験となる。
熱さ寒さの感覚もわからず、満腹感もわからない。

そのような状態になった著者が、初めてだらけの体験をする子供のような感覚で日々の出来事を描写する。著者のすぐれた感覚の表現は、所々詩をよんでいるようである。

人の認識や感覚とは何かということも考えさせられる。

また、母親の文章からは、苦労と著者への心配が窺える。

中々よい本。

巻頭、巻末にカラー写真。著者の染め物の作品などの写真(白黒)も収められている。

[関連]
『ぼくらはみんな生きている―18歳ですべての記憶を失くした青年の手記』(2003・幻冬舎文庫)
amazon

『ぼくらはみんな生きている―18歳ですべての記憶を失くした青年の手記』(2001・幻冬舎)単行本
amazon

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

Secured By miniOrange