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『米英の罪悪史』仲小路彰(世界創造社)

『米英の罪悪史』仲小路彰(なかしょうじ・あきら)(世界創造社)
旧字・旧かな

昭和17年(1942)4月30日発行
164頁

国立国会図書館


著者は、思想家。(1901-1984)

本書は、昭和17年1月21日から31日の十日間にわたりラジオで放送された講演を本にしたもののようだ。

書名の通り、米英の侵略・略奪・搾取の残虐さ、悪辣さを語っている。そして、悪逆の唯物的思想の英米からアジアの文化を守るためこれを打ち倒し、我が国・天皇を中心とした「スメラ・アジア文化圏」(筆者の造語。著者は「スメラ世界」等々表現している)のようなものを建設せねばならない、と論じている。

興味深い書。歴史的な事柄や真っ当な歴史認識の記述、それから急に強度の皇国史観の論とが繰り返される。また、仲小路の作詞・作曲した歌もおおく収められていて、ユニークである。ラジオ放送では、自ら歌ったらしい。聞いてみたいが、情報がない。

昭和17年1月の放送なので、当然、戦時下である。当時の一次資料として興味深い。(厳密には、ラジオ放送の音源が一次資料だが)
学ぶ所も多かった。

重要だと思った箇所を引用しておく。
新字・新かなに改める。一部表記をかえた。

p.10-p.11

近代イギリス帝国の基礎を確立したエリザベス女王の繁栄こそ、まさにこれら海賊の力によって獲得されたものでありました。エリザベス王はむしろ進んで海賊船隊を英国艦隊として編成せるものであり、国家は積極的に海賊行為を奨励し、これによってのみ自らの国富を増強し得たのでありました。

かくて各国はイギリス海賊の暴虐に憤激し、強硬にイギリス政府に抗議するものが無数でありました。これに対し女王は表には、あくまでも海賊に対する無関係を主張し、その抑圧を堅く約束しながら、背後にあって却って積極的にこれを激励する姦策を弄しました。

海賊国イギリス。この点、興味のある方は、『世界史をつくった海賊』竹田いさみ(ちくま新書)などがよいかもしれない。

p.36

すでに高度にして燦然たるアジア古代文化は、その未開野蛮なる英米の侵略者のために破壊され、兇猛、狡猾に搾取されたのでありました。彼等自ら東方文化の限りなき恩恵の下に生長しながら、否、西欧近代文化は、その基礎、要素を悉くアジアの創造、伝統より継承、奪取したものでありますが、――それを巧みに歪曲隠蔽し、彼等の奪える文化をもって、却って自らの尖鋭なる武器となし、アジア太平洋に対し、恩を仇で復する最も非人道的なる侵略と強奪とを、到るところで、ほしいままに行うのでありました。

歴史を大局的にながめれば、まさにその通り。ここ数百年で考えるとp.36引用の言っていることが、分からない。このように歴史を大きく捉えて要を得た論は少ない。

p.45
イギリスはインド内部の回教、ヒンヅー教、シーク教、ゾロアスター教等の諸々の宗教の混乱を利用して、益々それを深刻に矛盾、対立、敵視せしめ、また一方、インド本来の階級制カーストを巧みに強化して、その少数の上層階級のみを厚遇して親英主義たらしめ、その子弟をイギリス本国のケンブリッジ、オックスフォード大学に留学せしめ、身も心もイギリス人化せしめ、全くインド精神を喪失せしめるのであります。

同じようなことは今も行っているに違いない。自国に留学させて、イギリス人化やアメリカ人化、親英、親米にさせる戦略も現在までずっと続いているんじゃないかな。(詳しくはしらないが)

p.91

アメリカ独立の原理は、決して人道と正義の理想ではなく、たゞユダヤ的功利主義の独立と自由との権利を獲得するものに外ならず、その民主主義的自由とは、まさに一切の国家的本質の否定であり、単に「契約」の社会として、アメリカは生誕したのであります。ルソーの云う如く、社会的契約として、アメリカの民主主義体制は成立したもの(略)

人道の正義の理想などではなく功利主義が原理とは、その通りだろう。この功利主義がプラグマティズムなどに繋がるのだから。「その民主主義的自由とは、まさに一切の国家的本質の否定」というのは、アメリカとは国体がない根無し草の国である、という意味だろうか。ここは、よくわからない。

p.102

これ(筆者注:奴隷制)によりアメリカ資本主義の急激なる発展をもたらし、こゝに南北両地域の対立矛盾を発生激化するにいたったのであります。この南北の対立には、白人労働者に対する黒人奴隷との対立なのであります。――アメリカ南北戦争は、普通に云わるゝ如き人道主義的な奴隷解放では決してなくて、むしろ黒人奴隷制の上に発展せる南方エネルギーに対する北方の白人労働者の反抗でありました。

これもだいたいその通りだと思う。富についての抗争が主因だろう。今でも辞書などでも「人道主義的」な説明がなされている。それは偏った見方である。


[参考]
GHQ焚書図書開封 第58回 [リンク切れ] 戦争という運命を引き受けた知識人の悲劇(2)仲小路彰の歴史洞察

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