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米機の新型爆弾による攻撃に対する抗議文

昭和20年8月6日の広島市への原爆攻撃に対し、日本国政府は8月10日、スイス政府を通じて抗議文を米国政府に提出した。


米機ノ新型爆彈ニ依ル攻擊ニ對スル抗議文

昭和二十年八月八日

本月六日米國航空機ハ廣島市ノ市街地區ニ對シ新型爆彈ヲ投下シ瞬時ニシテ多數ノ市民ヲ殺傷シ同市ノ大半ヲ潰滅セシメタリ。廣島市ハ何等特殊ノ軍事的防備乃至施設ヲ施シ居ラサル普通ノ一地方都市ニシテ同市全体トシテ一ノ軍事目標タルノ性質ヲ有スルモノニ非ス。本件爆擊ニ關スル聲明ニ於テ米國大統領「トルーマン」ハ我等ハ船渠、工場及交通施設ヲ破壞スヘシト言ヒ居ルモ本件爆彈ハ落下傘ヲ附シテ投下セラレ空中ニ於テ炸裂シ極メテ廣キ範圍ニ破壞的効力ヲ及ホスモノナルヲ以テ之ニ依ル攻擊ノ効果ヲ右ノ如キ特定目標ニ限定スルコトハ技術的ニ全然不可能ナコト明瞭ニシテ右ノ如キ本件爆彈ノ性能ニ付テハ米國側ニ於テモ旣ニ承知シ居ル所ナリ。又實際ノ被害狀況ニ徵スルモ被害地域ハ廣範圍ニ亘リ右地域內ニ在ルモノハ交戰者非交戰者ノ別ナク又男女老幼ヲ問ハズ總テ爆風及ビ輻射熱ニ依リ無差別ニ殺傷セラレ其ノ被害範圍ノ一般的ニシテ且甚大ナルノミナラズ個々ノ傷害狀況ヨリ見ルモ未タ見サル殘虐ナルモノト言フヘキナリ。

抑々交戰者ハ害敵手段ノ選擇ニ付無制限ノ權利ヲ有スルモノニ非サルコト及不必要ノ苦痛ヲ與フヘキ兵器、投射物其ノ他ノ物質ヲ使用スヘカラサルコトハ戰時國際法ノ根本原則ニシテ夫々陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約附屬書陸戰ノ法規慣例ニ關スル規則第二十二條及第二十三條(ホ)號ニ明定セラルル所ナリ。米國政府ハ今次世界ノ戰亂勃發以來再三に亘リ毒瓦斯乃至其ノ他ノ非人道的戰爭方法ノ使用ハ文明社會ノ與論ニ依リ不法トセラレ居レリトシ對手國側ニ於テ先ツ之ヲ使用セサル限リ之ヲ使用スルコトナカルヘキ旨聲明シタルカ米國カ今囘使用シタル本件爆彈ハ其ノ性能ノ無差別且殘虐性ニ於テ從來斯ル性能ヲ有スルカ故ニ使用ヲ禁止セラレ居ル毒瓦斯其ノ他ノ兵器ヲ遙ニ凌駕シ居レリ。

米國ハ國際法及人道ノ根本原則ヲ無視シテ旣ニ廣範圍ニ亘リ帝國ノ諸都市ニ對シテ無差別爆擊ヲ實施シ來リ多數ノ老幼婦女子ヲ殺傷シ神社、佛閣、學校、病院、一般民家等ヲ倒壞又ハ燒失セシメタリ。而シテ今ヤ新規ニシテ且從來ノ如何ナル兵器、投射物ニモ比シ得サル無差別性、殘虐性ヲ有スル本件爆彈ヲ使用セルハ人類文化ニ對スル新タナル罪惡ナリ。

帝國政府ハ玆ニ自ラノ名ニ於テ且又全人類及文明ノ名ニ於テ米國政府ヲ糺彈スルト共ニ卽時斯ル非人道的兵器ノ使用ヲ放棄スヘキコトヲ嚴重ニ要求ス。


米機の新型爆弾による攻撃に対する抗議文(新字新かな)

昭和20年8月8日

本月6日 米国航空機は広島市の市街地区に対し新型爆弾を投下し瞬時にして多数の市民を殺傷し同市の大半を潰滅せしめたり。広島市は何ら特殊の軍事的防備ないし施設を施しおらざる普通の一地方都市にして同市全体として一の軍事目標たるの性質を有するものにあらず。本件爆撃に関する声明において米国大統領「トルーマン」は 我らは船渠、工場および交通施設を破壊すべしと言いおるも本件爆弾は落下傘を附して投下せられ空中において炸裂し極めて広き範囲に破壊的効力を及ぼすものなるを以て これによる攻撃の効果を右のごとき特定目標に限定することは技術的に全然不可能なこと明瞭にして右のごとき本件爆弾の性能については米国側においても既に承知しおる所なり。また実際の被害状況に徴するも被害地域は広範囲にわたり右地域内にあるものは交戦者非交戦者の別なく又男女老幼を問わず すべて爆風および輻射熱により無差別に殺傷せられ その被害範囲の一般的にしてかつ甚大なるのみならず個々の傷害状況より見るも いまだ見ざる残虐なるものと言うべきなり。

そもそも交戦者は害敵手段の選択につき無制限の権利を有するものにあらざること及び不必要の苦痛を与うべき兵器、投射物その他の物質を使用すべからざることは戦時国際法の根本原則にして それぞれ陸戦の法規慣例に関する条約附属書陸戦の法規慣例に関する規則第22条および第23条(ホ)号に明定せらるる所なり。米国政府は今次世界の戦乱勃発以来再三にわたり毒ガスないしその他の非人道的戦争方法の使用は文明社会の世論により不法とせられおれりとし対手国側において まずこれを使用せざる限りこれを使用することなかるべき旨声明したるが 米国が今回使用したる本件爆弾はその性能の無差別かつ残虐性において従来斯る性能を有するがゆえに使用を禁止せられおる毒ガスその他の兵器を遥かに凌駕しおれり。

米国は国際法および人道の根本原則を無視して既に広範囲にわたり帝国の諸都市に対して無差別爆撃を実施し来り多数の老幼婦女子を殺傷し神社、仏閣、学校、病院、一般民家等を倒壊または焼失せしめたり。而して今や新規にして かつ従来のいかなる兵器、投射物にも比し得ざる無差別性、残虐性を有する本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たなる罪悪なり。

帝国政府はここに自らの名において かつまた全人類および文明の名において米国政府を糺弾すると共に即時斯る非人道的兵器の使用を放棄すべきことを厳重に要求す。

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