1988年5月15日初版発行
新装版1991年
276頁
目次(収録作品)
第1章 心の領域-御伽草子の本質
1 はじめに―問題意識
2『浦島太郎』―喪失と獲得の物語
3『鉢かづき』―如意宝の両義性
4 隠された神としての如意宝―御伽草子の教訓の本質
5 おわりに―古典と現代
第2章『酒呑童子』論序説―自己否定と自己確認
1 藤原千方
2 四天王型への道
3 目と目が出合う時
4 酒をめぐって
第3章 短篇物語論―凝縮された本格的物語
1『二十四孝』
2『さざれいし』
3『七草草紙』
第4章 御伽草子のめざすもの―反復される如意宝
1『御曹子島渡り』―女性の援助
2『一寸法師』―本書の総括も兼ねて
懐かしい記憶のように私たちの心に秘められた〈御伽草子〉。様々な変貌を遂げながらも現代にまで語り継がれた中世物語〈御伽草子〉の成立と遍歴を〈話型分析〉によって明らかにする注目の一冊。
出典:ぺりかん社公式サイト
著者は国文学者。
本書は一言でいうと、御伽草子の作品を「如意宝」という素材に注目して話型分析した論文。(p.273)
「如意宝」とは、著者の定義によると「一切の願いが自分の意の如くかなうという不思議な宝の意で、宝珠を典型とするが、笛・剣・打出の小槌などありとあらゆる形態を取る。完成された美しい人格の象徴。仏教にこだわらない。」(p.274)というもの。
益する所もありなかなかよいが、書名にある「精神」についてはあまり考察が深くない。単に「如意宝」を指摘することには意味はなく、それに籠められた、またその背後にある精神を考えなければならない(p.86ほか)と著者も戒めているのだが、その点の考察は不十分に感じる。
第2章の酒吞童子の話型分析の論がうまくまとまっていてすぐれる。第1章は、論拠を示さずに断定している所が多く論述がよくない。
文章は分かりやすいが、本書を読むには論じられている物語を知っていないと難しい。『古事記』、『竹取物語』、『鉢かづき』は読んでおきたい。
なお、引用されている「古文」に現代語訳はないのでそこはハードルが高いかも。(ただ、当該の物語を現代語訳で読んでいれば問題ない)