『忘れられた名文たち 其ノ二 日本人はこんな文章を書いてきた』鴨下信一(文藝春秋)
1998年6月20日初版発行
283頁
目次(収録作品)([]は筆者)
第1章
涙の名文
1 [『次郎物語』下村湖人(新潮文庫)]
2 [『天の夕顔』中河与一 [amazon]]
3 [『花物語』吉屋信子(河出文庫)]
4 [「辰野隆先生告別式における弔辞」渡部一夫。佐藤春夫の死去に際しての川端康成の弔辞。『現代人のためのスピーチの常識大百科』所収 [amazon]]
5 [「青幻記」一色次郎 [amazonで見る]
6 [『桜の森の満開の下』坂口安吾(岩波文庫)]
「血沸き肉躍る」名文
1 [「実録アジアの曙」山中峯太郎 [amazonで見る]]
2 [「忍術己来也」白井喬二 [amazonで見る]]
3 [『将軍乃木』桜井忠温 [amazon]。「石榴の誘惑」薄田泣菫]
4 [『古川ロッパ昭和日記』(全4巻)[amazonで見る]]
「叱る名文」
1 [『大衆文芸評判記』三田村鳶魚 [amazon]]
2 [『“花見酒”の経済』笠信太郎 [amazon]]
3 [「もののけじめ」花森安治。『花森安治選集3』所収]
4 [吉田茂の文章]
5 [「恐ろしい時代」吉田健一(「文學界」)]
第2章
政治家の名文
1 [石橋湛山]
2 [『革命前夜のロシア』芦田均 [amazon]]
3 [『木戸幸一日記』]
4 [「暗黒日記(戦争日記)清沢洌 ]
「怖い話」の名文
1 [「室の中を歩く石」「天井からぶら下る足」田中貢太郎。『日本怪談実話〈全〉』に所収 [amazon] 楽天]
2 [『天狗』大坪砂男 [amazon]]
3 [「阿部定事件予審調書」]
4 [『瓶詰の地獄』夢野久作 ]
5 [「夢日記」横尾忠則 [amazon]]
外国文のような名文
1 [『影を踏まれた女』岡本綺堂 ]
2 [串田孫一]
3 [「笛吹川を遡る」田部重治]
4 [「仏蘭西だより」島崎藤村]
名文集の名文
1 [「魚とり」『綴方読本』鈴木三重吉に所収。(同名の講談社学術文庫のものは、単行本版を全文収録していなく、たぶん「魚とり」は収録されていない)]
2 [藤浦洸のスピーチ。『現代人のためのスピーチの常識大百科』所収 [amazon]]
3 [「椿」「骨」里見弴]
4 [文語体聖書。[amazonで見る]]
5 [円谷幸吉の遺書 。『敷島隊の五人』森史朗 ]
6 [「茶話」薄田泣菫 。『退屈読本』佐藤春夫 ]
7 [『愚弟賢兄』佐々木邦 [amazonで見る]]
第3章
会話の名文
1[『芸界通信 無線電話』田村成義 [amazon]]
2[『尾上菊五郎』戸坂康二 [amazon]。『歌舞伎役者』宇野信夫 [amazon]、『昭和の名人名優』宇野信夫 [amazon]]
3[『???』長谷川幸延]
4[『芸能らくがき帖』吉川義雄 [amazon]]
5[二代目広沢虎造「森の石松三十石道中」]
6[『唾玉集』(東洋文庫)]
7[「初夢」正岡子規。『飯待つ間』 所収]
口述・速記・聞き書の名文
1[「鏡ヶ池操松影(江田島騒動)」「牡丹灯籠」三遊亭圓朝。『牡丹灯籠』[amazonで見る]]
2[『聞書アラカン一代 鞍馬天狗のおじさんは』竹中労 [amazon]]
3[『西園寺公と政局』(原田日記)[amazonで見る]]
4[『政治家中野正剛』中野泰雄 [amazonで見る]]
5[『雨の念仏』宮城道雄 [amazon]]
6[「涕泣史談」「女の咲顔」柳田国男。『遠野物語』(集英社文庫) 所収]
日記の名文
1[『太田伍長の陣中日記』[amazon]]
2[「ローマ字日記」石川啄木 [amazonで見る]]
3[『戦中派虫けら日記』山田風太郎 ]
4[岡本綺堂の日記。[amazon]]
5[徳富蘆花の日記。[amazonで見る]]
6[喜多村緑郎の日記。[amazonで見る]]
反論・弁明・いいわけの名文
1[村岡伊平治。『ドキュメント日本人6 アウトロウ』[amazon] 『村岡伊平治自伝』[amazonで見る]]
2[山崎晃嗣の日記。『読本 犯罪の昭和史2』からか [amazonで見る]]
3[『敗因を衝く』田中隆吉 [amazon]]
4[「“指揮権発動”を書かざるの記」犬養健 [青空文庫]]
5[「一月の思い出」加藤文太郎。『単独行』 所収]
6[『銀嶺に輝く 報告と追悼(窪田田部両君追悼記念)東大運動会スキー山岳部編]
著者はTBSのテレビディレクター、演出家。
本書は、『忘れられた名文たち』の続編。初出は雑誌「諸君!」の連載。
書籍として残らない「雑文」の名文を紹介するというコンセプトであったが、本書は今も書籍として読めるものから多く引用している。参考のために目次にそれらを示しておいた。
名文というよりは、個性(癖)のある文章も結構ある。一書としては前作の方がすぐれる。
知っているものもあったが、ブックガイドとしては有益だった。
前作同様、引用文の出版社や発行年や雑誌名等が示されていないのがよくない。初出の雑誌連載時は仕方がなかったかもしれないが、書籍化の際に加えられたはずであるし、そうすべきである。
岡本綺堂の日記に大きな社会的事件が記されていないこと(p.243)。また、『フランス革命下の一市民の日記』[amazon]も同様に社会的事件よりも、日常の私的なことを優先して書いているのを指摘して、これが日記の特性だと考察している。そして、著者は次のように述べる。
(p.244)
「そうした意識で日記を書いた人は、例えば永井荷風がそうである。荷風の日記に公のことが非常に少い(特に終戦の日の記述)ことから、荷風の反抗的社会意識や戦争に対する嫌悪感にいたるまでさまざまなことを文芸評論家はあげつらうが、それは日記というものに対する無知である。荷風も綺堂も自分の日記の持つ私的生活に忠実なだけだった。」
荷風の意識の実際のところは、分からないが、この視点は卓見である。
[筆者注]
(p.254ほか)「村岡伊平次」とあるが、「伊平治」の間違いだろう。