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「ビルマ独立」高村光太郎

ビルマ独立

印度と支那と仏印との山嶽を押しわけ、
サルウイン、イラワヂ、シツタンの大河たいがを縦に並べ、
東南アジヤの大陸に巨大な楔をうちこむもの、
西蔵、雲南の高みからベンガル湾の波打際まで
チークと稲と木綿とに地表を被はれ、
天のきざはしの如く壮大に位置するもの、
北回帰線を頭上にいただき、
雨季と乾燥季とに一年を恵まれ、
黄金わうごんのパゴダに国を挙げて信篤きもの、
ビルマはいま独立を宣する。
百余年前の英軍侵入このかた、
数知れぬ憂国の志士の空しく望んだ
ビルマ独立の悲願はつひに成つた。
国土おのおのその処を得て
その民これによつて共に栄ゆべしとは
畏くもわが皇謨くわうぼつとに示し給ふところ。
傑僧オツタマかつて心魂をつくし
われらによらんとして時到らず、
いま明敏バー・モウ氏身を挺して起ち、
つひにこれを実現した。
ビルマの独立はアジヤ十億の民の光なるかな。
他を侵略して利を貪らんとする者敗れ、
義は必ず力を得て正しきにかへる。
アングロ・サクソンのやからみづから驕り、
人類はただ己が指導のもとにありとなす。
東亜の民の如き殆と眼中になく、
われらが深き精神の質を顧ずして
ただ喧々けんけんたる実利の理念を追ふ。
かくの如き卑俗の文明をわれらは否定す。
彼等は彼等の圏内にあつてその波をあげよ。
断じてわれらの文化を犯すをゆるさず、
断じてわれら十億の民を瞞着するをゆるさず、
日本、斯くて国運をかけて戦ふ。
ビルマ今独立して明かに亦彼等を否定す。
彼等の好言に欺かれざるもの、
彼等の恫喝に恐れざるもの、
まづビルマにその国旗をひるがへした。
明敏バー・モウ氏の双肩は愈々重いが、
アラカンヨーマの山嶮、
マユ渓流の水域西方に厳たり。
決然たる新生活は溌剌として興り、
黄金わうごんのパゴダ悠久の天を指さす。
光あるかな、ビルマの独立。
東南アジヤ大陸の巨大な楔、
天のきざはしビルマに永遠の正しき美とあれ。


出典:『高村光太郎全集 第3巻』(筑摩書房)。新漢字に改める。
※高村光太郎の著作権は消滅している。

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