2000年
299頁
定価:2,300円(税別)
目次(収録作品)
1 随想
訓詁一筋
誤読の話
寡黙ということ
学術論文について
私の卒業論文
抜けているということ
「太郎」の話
猪養の岡の寒くあらまくに
北京の柳絮
多羅葉
雀の巣づくり
特色なき歌の特色―萬葉集を読む楽しさ
私の好きな句
萬葉の女性たち
愚者の賦―『萬葉集釋注』の公刊を終えて
2 書評
犬養孝『萬葉の旅』上
神田秀夫『人麻呂歌集と人麻呂伝』
後藤利雄『萬葉集成立論』
清水克彦『萬葉論集』
北山茂夫『大伴家持』
梅原猛『水底の歌―柿本人麻呂論』上下
橋本達雄『萬葉宮廷歌人の研究』
大久保正氏の著作―文献学的実証の一途に賭けた人
五味智英『萬葉集の作家と作品』
青木生子『萬葉挽歌論』
佐佐木幸綱『東歌』
吉井巌『萬葉集全注』巻第六
橋本四郎論文集『萬葉集編』『国語学編』
大岡信『私の萬葉集』一
中川幸廣『萬葉集の作品と基層』
犬養孝『萬葉十二ヵ月』解説
澤瀉久孝『萬葉集講話』解説
3 講演
歌と作者―御言持ち歌人額田王の論
萬葉の歌ごころ―亡妻挽歌を通して
萬葉集と漢文―比較文学研究の問題点
4 萬葉秀歌百首
著者は、日本文学者(万葉学者)。
本書は『萬葉集釋注」(全13巻・集英社)完結したことを記念して刊行されたもの。
新聞や雑誌等に発表されたエッセー、書評および講演をまとめたもの。
エッセーはそれぞれ短いもので15編収められているが、約50ページ。
なかなかよいのでエッセーをもっと読みたかった。
著者と恩師とのめぐり合わせのエピソードがよい。
(p.68)[]内は引用者。
少年[著者]は、[斎藤茂吉の]『萬葉秀歌』にすっかり惚れこんでしまった。この書の中に「澤瀉久孝」という名がしばしば出て来た。今日の学者の中で茂吉が最も信頼を寄せている人らしい。少年の家は農家であった。父の方針で、小学校一年になると、子どもはみな農事に従わされた。田の草取りという世にも辛い作業の時に、白い花を凛と咲かせる草によく接した。「父ちゃん。これは何だい。」「オモダカよ」。(略)
少年の青年期は世を挙げて軍人が囃される時代であった。だが、軍人への願望をあれやこれや断たれてしまったために、少年はその後文学派であり続け、昭和二十四年、[京都大学に入学し]澤瀉門下に加わることになる。