『かくれた次元』エドワード・ホール(エドワード・T.ホール)、日高敏隆・佐藤信行訳(みすず書房)
1970年
304頁
目次(収録作品)
第一章 コミュニケーションとしての文化
第二章 動物における距離の調節
第三章 動物における混みあいと社会行動
第四章 空間の知覚——遠距離受容器 目・耳・鼻
第五章 空間の知覚——近接受容器 皮膚と筋肉
第六章 視覚的空間
第七章 近くへの手掛りとしての美術
第八章 空間のことば
第九章 空間の人類学——組織化のモデル
第十章 人間における距離
第十一章 通文化的関連におけるプロクセミックス——ドイツ人・イギリス人・フランス人
第十二章 通文化的関連におけるプロクセミックス——日本とアラブ圏
第十三章 都市と文化
第十四章 プロクセミックスと人間の未来
付録 遠近法の13のヴァラエティーに関するジェームズ・ギブスンの論文の摘要
今日の世界では、われわれは、多くの情報源からのデータに圧倒され、さまざまの文化に接触し、世界中いたるところで人びとにインヴォルヴされてゆく。それとともに、世界全体とのかかわりが失われているという意識もしだいに強くなっている。
本書は、人間の生存やコミュニケーション・建築・都市計画といった今日的課項とふかく結びついている“空間”利用の視点から人間と文化のかくれた構造を捉え、大量のしかも急速に変化する情報を、ひとつの統合へと導く指標を提供するものである。
ホールは、二つのアプローチを試みる。一つは生物学的な面からである。視覚・聴覚・嗅覚・筋覚・温覚の空間に対する鋭敏な反応。混みあいのストレスから自殺的行為や共食いといった異常な行動にかられるシカやネズミの例をあげ、空間が生物にとっていかに重要な意味をもつかを示す。人間と他の動物との裂け目は、人びとの考えているほど大きくはない。われわれは、人間の人間たるところがその動物的本性に根ざしていることを忘れがちである。
もう一つは文化へのアプローチである。英米人・フランス人・ドイツ人・アラブ人・日本人などの、私的・公的な空間への知覚に関して多くの興味ぶかい観察を示し、体験の構造がそれぞれの文化にふかく型どられ、微妙に異なる意味をもつことを示す。それはまた疎外や誤解の源でもあるのだ。
このユニークな把握は、人間に人間を紹介しなおす大きな助けとなり、急速に自然にとってかわり新しい文化的次元を創り出しつつあるわれわれに、新鮮な刺激と示唆をあたえてやまない。出典:みすず書房公式サイト