改版1988年
114頁
目次(収録作品)
一房の葡萄
溺れかけた兄妹
碁石を呑んだ八っちゃん
僕の帽子のお話
火事とポチ
有島武郎が生前に残した創作集は『一房の葡萄』ただ一冊である。挿絵と装丁を自ら手がけ、早く母を失った3人の愛児への献辞とともに表題作ほか3篇の童話が収めてある。童話とはいうものの、人生の真実が明暗ともに容赦なく書きこまれており、有島ならではの作となっている。ほかに「火事とポチ」を加えた。(解説=中野孝次)
本書表紙(カバー)より
古い児童文学作品だが、文体はいまも古びていなく読みやすい。ただ、「溺れかけた兄妹」は、海で兄妹が溺れかける話、「碁石を呑んだ八っちゃん」は、幼い弟の八っちゃんが、碁石をのみこんでしまう話で、つまり、タイトルそのまんまで極くシンプル描かれていて、現代の児童らがこれらをどう思うのかは筆者には分からない。単純素朴でよいと思うのか、つまらないと感じるのか。
「僕の帽子のお話」は、子供の日常の出来事を描いた他作品と異なって、空想的な話である。逃げてゆく帽子を追いかけるというだけの内容だが、映像的で、絵本やアニメーションにしたら今見てもよい作品となるだろう。
「火事とポチ」は、なかなかよい哀話。