『エコロジカルな心の哲学―ギブソンの実在論から』河野哲也(勁草書房)
2003年
255頁
目次(収録作品)
序論 知覚とエコロジー
1 本書の目的
2 第三世代の認知科学とギブソン
3 心は個体のなかにあるのか
4 どこから見た科学なのか
5 生態学的立場の哲学
6 「エコロジカル」という意味
7 本論の展開
I J・J・ギブソンの隠れた哲学
第一章 ギブソンの直接知覚論
1 序:認識論としての直接知覚論
2 間接知覚論の伝統
3 直接知覚論とは何か
4 行動主義とゲシュタルト理論のあいだで
5 奥行き知覚の大地説
6 生態光学:包囲光・移動視・知覚系
7 直接知覚への批判
8 知覚はどこに生じるのか
9 脳は情報を受信しないし、命令を発信することもない
10 知覚的情報は伝達されずに外界にある
11 記憶の役割
第二章 アフォーダンスと行為の理論
1 アフォーダンスとは何か
2 アフォーダンスの知覚
3 アフォーダンスについての誤解と批判
4 アフォーダンスの実在性
5 リード流のアフォーダンス解釈は正しいか
6 人工物のアフォーダンス
7 アフォーダンスと行為
第三章 生態学的物理学:ギブソンの存在論
1 生態学的物理学と存在の階層性
2 存在論的な多元主義
3 実在していることの基準とはなにか
4 ギブソンのディスポジショナリズム
5 アリストテレス主義:実在しているのは過程である
6 自然法則の局所性
7 歴史をもった自然
II 生態学的立場から
第四章 志向性と表象
1 志向性という問題
2 志向性と心的行為
3 ブレンターノの志向性
4 志向性の行為説と生産説
5 表象の正体
6 表象主義と記憶
7 表象の認知科学ではなく、表現論・技術論へ
8 ロボットからの計算主義批判
9 運動志向性と身体図式
10 アンスコムの「観察に基づかない知識」
11 志向性とは意図のことである
第五章 エコロジカルな自己
1 ギブソンの自己知覚論
2 世界を隠すものとしての自己
3 感覚的性質
4 パースペクティヴと世界
5 さまざまな自己概念
6 形而上学的自己
7 「わたし」の機能
8 形而上学的自己の語用論的な解消
9 デカルトのコギト:問題の原点
あとがき:ブリュッセルからアルゴンキンへ
本書は、ギブソンの生態学的心理学に見出せる独自の認識論(直接知覚論)、存在論、行為論などを明らかにし、それらを「生態学的立場の哲学」として提唱するものである。20世紀後半の心理学は、行動主義から認知主義へ転換したといわれる。今盛んな認知科学などは認知主義に基づいている。本書でのギブソンの評価は、この認知主義をも批判する更にラディカルなものであり、認知科学の第三世代と呼ばれる最先端の潮流と結びついている。全五章のうち前半三章でギブソンの仕事を解説し、後半二章で志向性、自己というテーマを解明している。
出典:勁草書房公式サイト