『日本人の原爆投下論はこのままでよいのか―原爆投下をめぐる日米の初めての対話』ハリー・レイ、杉原誠四郎、 山本礼子訳(日新報道)
2015年12月8日発行
365頁
定価:1,980円(税込)
目次(収録作品)
第1章 人間性の崩壊
第2章 無条件降伏方式と原爆投下代替案の限界
第3章 ポツダム宣言―原爆投下とソ連参戦を回避する機会を失う
第4章 最終(本土)決戦
第5章 解読された暗号通信の役割
第6章 広島の原爆投下に至った本土決戦計画
第7章 一日に二つの衝撃―長崎とソ連参戦
第8章 軍部の非妥協的な対決姿勢―降伏直前の屈服
第9章 原爆投下をめぐる問題、「原爆外交説」、そして、日本の教科書に与えた影響
第10章 結論
日米開戦外交と終戦外交とその後の問題 杉原誠四郎
著者は、米国の歴史学者(専門は、日本の教育史)。
章ごとに教育学者の杉原が解説を加えるという構成になっている。
いわゆる「原爆外交説」の否定が本書の主旨。
原爆外交説とは、先の大戦においての米国の日本への原爆攻撃は、戦争を早期に終わらせるためではなく、ソ連に対してその威力を示し優位に立つのが目的だった、というもの。
本書は、それを否定し原爆攻撃は、戦争の早期終結が目的であった。また、原爆攻撃で日本が降伏したため連合軍の大規模な日本本土上陸作戦(ダウンフォール作戦)などはなくなり、ソ連の侵攻も最小限にすみ、結果的に膨大な数の犠牲者がでるのを避けられた点をしっかりと認識するべきであると主張している。
結論をいうと、本書はおすすめしない。この事柄に興味があるひとには、下記のWikipediaと本書でも多く引用されている麻田貞雄の論文をおすすめする。麻田論文は原爆投下論のこれまでの経緯も手際よくまとめてあり、論述も明快でよい。
本書は正しい批判もあるが、後講釈(結果論)や一方的視点の部分があちこちに見られる。
それから、参考文献をわずかにしか示していない。引用の出典を示していない箇所が多い。死者数などの情報が疑わしいものがみられる、本書内で一致していない箇所もいくつかある。誤った東京裁判史観やプロパガンダ情報などが散見される。([筆者注]にいくつか示す)
はっきり言って「歴史学者」としては信用できませんね。
また、本書は、論の構成がよくないのに加え、話が時間的に前後するところが散見され、無駄な重複が非常に多く読みにくい。巧い書き手なら本書の半分くらいの分量で、分かりやすくまとめられるだろう。
[筆者注]
(p.16)「日本が強制したビルマ・シャムの鉄道建設(死の鉄道)で八万二五〇〇人が死亡している。」
Wikipedia情報では、「アジア人労働者の死亡数は、約4万人-7万人と推定されている」とある。
(p.24)「日本が行ったビルマ・タイ鉄道の建設中の死亡者数概算によっても、従事した捕虜八万二五〇〇人の捕虜のうち約一万二四〇〇人が死亡した。」
この記述は、多分「連合軍の捕虜が8万2500人でその内、約1万2400が死亡した」という意味だと思う。
Wikipedia情報では、「連合軍の捕虜は、約6万2千人-6万5千人。死亡者数は、約1万2600人」。
(Wikipedia 泰緬鉄道建設捕虜虐待事件)
(p.90ほか)「『終戦外交史―無条件降服までの経緯』」
『終戦外史―無条件降服までの経緯』の間違い。
amazon
(p.288)「(略)[日本の軍部が]日本国民を欺瞞し、世界制覇の挙に走らせる過誤を犯し(略)」
軍部の欺瞞や専横はその通りだが、「世界制覇」というのはまったくの東京裁判史観。
[参考]
Wikipedia(日本への原子爆弾投下)
「「原爆外交説」批判 : “神話”とタブーを超えて」麻田貞雄[PDF]