『萬葉集釋注一 巻第一・巻第二』伊藤博(いとう・はく)(集英社文庫ヘリテージシリーズ)全10巻
2005年9月21日初版発行
618頁(本文465頁・注・解説・エッセイ・初句索引)
収録作品(目次)
万葉集 巻第一(1~84)
万葉集 巻第二(85~234)
解説 万葉集解説一(三田誠司)
柿本人麻呂・石見相聞歌―私の愛する万葉集(中村稔)
万葉集のすべての歌を訳し、それぞれの歌について解説をした本。
筆者の知る限り本書のような書籍はこれのみである。
全訳されたものは、ほかに『新版 万葉集 現代語訳付き』伊藤博(全4巻)と『万葉集 全訳注原文付』中西進(全4巻+別巻1)とがあるが、それらには解説・評釈はない。
「これまでの万葉集の注釈書は、一首ごとに注解を加えることが一般的であった。だが、万葉歌には、前後の歌とともに歌群として味わうことによって、はじめて真価を表わす場合が少なくない」(本書p.15)との考えから注釈されている。
端正で達意の文章が心地よい。
注釈書は見開きページの上や下の何分の一を区切って、そこに小さい文字がびっしりと並んでいるものも珍しくないが、本書は注はうしろにまとめて、本文の文字は大きく行間は広く、読みやすい素晴らしい構成である。ページの下部隅に歌番号が付されているので番号が分かれば、目当ての歌を楽に探し出せるのも便利。
本書、第1巻には巻末に全10巻の初句索引が付されている。
それから、第1巻から順に読まなくとも各巻単体でも分かるように配慮され書かれているのもよい。
大部の本で読み通すのに時間がかかるが、万葉集のすべての歌を知りたい人には本書が最良である。その時代の思想や観念や俗信などの解説がないと理解できない歌が多数ある。筆者は万葉集の知識はなく、いきなり本書を選んだが大正解であった。訳と語注だけの本を選択していたら読み通せずに、途中で断念していたに違いない。
当然、研究する人は必読必携。
本書は、『萬葉集釋注一 巻第一・巻第二』(1995・集英社)の文庫版。
一点、気になった。
一座で歌を詠むときの掛け合いのパターンの説明のくだりの図(p.184)である。
波紋型を下掲のように記しているのだが、筆者はなぜ波紋型と呼ぶのかしばらく理解できなかった。
図1のように書いてくれれば、すぐに分かったろう。
図1
[関連]
『萬葉集釋注一 巻第一・巻第二』伊藤博(1995・集英社)単行本、定価:10,466円(税込)
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[参考]
『新版 万葉集 現代語訳付き』伊藤博(角川ソフィア文庫)(全4巻)
『万葉集 全訳注原文付』中西進(講談社文庫)(全4巻+別巻1)