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『日本の臣道・アメリカの国民性』和辻哲郎(筑摩書房)

『日本の臣道・アメリカの国民性』和辻哲郎(戦時国民文庫、筑摩書房)

旧字・旧かな

昭和19年(1944)7月10日発行
86頁




著者は、哲学者、倫理学者。

「日本の臣道」は、昭和18年4月に海軍大学校で行った講演。

「アメリカの国民性」は、昭和18年12月に書かれたもの。

本書はGHQの占領期に事実上「焚書」となった書のひとつ。

非常に興味深く勉強になった一書。特に「アメリカの国民性」は、我が国でほとんど語られない重要な点を的確に分析していてすばらしい。

アメリカの国民性には、フランシス・ベーコンとトマス・ホッブズの精神・思想が色濃く反映しているという論述が主な内容。

16世紀頃のヨーロッパ人による狡猾な侵略のしかたも分かりやすく説明している。
古い本だが、明解な文章なので支障なく読める。

おすすめの良書。

「アメリカの国民性」の冒頭は、重要なのですこし長いが引用しておく。引用元の本は絶版のようなので記しておく。
(原文は旧漢字・旧かなだが、新字新かなに改める)

曾てバーナード・ショウがナポレオンを取扱った喜劇『運命の人』の中でナポレオンの口を通じてイギリス人の特性描写をやったことがある。中々うがった観察であるから、緒としてここに引用する。

イギリス人は生れつき世界の主人たるべき不思議な力を持っている。彼は或物が欲しい時、それが欲しいということを彼自身にさえ云わない。彼はただ辛抱強く待つ。その内に、彼の欲しい物の持主を征服することが彼の道徳的宗教的義務であるという燃えるような確信が、どういうわけか、彼の心に生じてくる。そうなると彼は大胆不敵になる。貴族のように好き勝手に振舞い、欲しいものは何でも摑む。小売商人のように勤勉に堅実に目的を追求する。それが強い宗教的確信や深い道徳的責任感から出るのである。で彼は効果的な道徳的態度を決して失うことがない。自由と国民的独立とをふりかざしながら、世界の半分を征服し併合する、それが植民なのである。またマンチェスターの粗悪品のために新しい市場が欲しくなると、先ず宣教師を送り出して土人に平和の福音を教えさせる。土人がその宣教師を殺す。彼は基督教防衛のために武器を執って立つ。基督教のために戦い征服する。そうして天からの報いとして市場を手に入れる。或はまた彼は、自分の島の海岸を防衛するために、船に教誨師を乗せる。十字架のついた旗をマストに釘づけにする。そうして地球のはてまで航海し、彼の海洋帝国に異論を唱えるものを悉く撃沈、焼却、破壊する。更にまた彼は、奴隷と雖も、英国の国土に足をふれた途端に自由になる、と豪語しながら、自国の貧民の子を六歳で売飛ばし、工場で一日十六時間、鞭のもとに働かせている。……総じてイギリス人が手をつけないほど悪いこと(と云うか善いこというか)は世の中に一つもない。しかもイギリス人が不正であることは決してないのである。彼は何事でも原理に基いてやる。戦う時には愛国の原理に基いている。泥棒する時には、ビジネスの原理に。他を奴隷化する時には、帝国主義の原理に。他をいじめる時には、男らしさの原理に。……彼の標語は常に義務である。しかしその義務は必ず国民の利益と合致したものでなくてはならないのである。

これはショウ一流の皮肉として、この喜劇の看客を苦笑せしめたに過ぎないかも知れぬ。しかし自分はここに赤裸々の真実を見る。そうしてこういう真実を単なる皮肉として笑ってすませているところに、イギリス人の図太さを看取し得ると思う。


筆者もまったくそう思う。その図太さ・したたかさは彼らの中に今も生きている。それを認識して交渉、交際すべきである(それはイギリスに限らずだが)。

『日本の臣道・アメリカの国民性』 和辻哲郎[国立国会図書館デジタルコレクション]

『アメリカの国民性』和辻哲郎[国立国会図書館デジタルコレクション]
(和辻の自筆原稿か)

[参考]
ニコニコ動画

(※以下、リンク切れ)
GHQ焚書図書開封 第172回  和辻哲郎「日本の臣道」(一)西尾幹二
GHQ焚書図書開封 第173回  和辻哲郎「日本の臣道」(二)
GHQ焚書図書開封 第174回  和辻哲郎「アメリカの國民性」(一)
GHQ焚書図書開封 第175回  和辻哲郎「アメリカの國民性」(二)
GHQ焚書図書開封 第176回  和辻哲郎「アメリカの國民性」(三)

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