『萬葉集釋注二 巻第三・巻第四』伊藤博(いとう・はく)(集英社文庫ヘリテージシリーズ)全10巻
2005年9月21日初版発行
672頁(本文608頁・注・解説・エッセイ)
収録作品(目次)
万葉集 巻第三(235~483)
万葉集 巻第四(484~792)
解説 万葉集解説二(三田誠司)
わが人生の書―私の愛する万葉集(田辺聖子)
万葉集のすべての歌を訳し、それぞれの歌について解説をした本。
筆者の知る限り本書のような書籍はこれのみである。
全訳されたものは、ほかに『新版 万葉集 現代語訳付き』伊藤博(全4巻)と『万葉集 全訳注原文付』中西進(全4巻+別巻1)とがあるがそれらには、解説・評釈はない。
「これまでの万葉集の注釈書は、一首ごとに注解を加えることが一般的であった。だが、万葉歌には、前後の歌とともに歌群として味わうことによって、はじめて真価を表わす場合が少なくない」(本書p.3)との考えから注釈されている。
端正で達意の文章が心地よい。
注釈書は見開きページの上や下の何分の一を区切って、そこに小さい文字がびっしりと並んでいるものも珍しくないが、本書は注はうしろにまとめて、本文の文字は大きく行間は広く、読みやすい素晴らしい構成である。ページの下部隅に歌番号が付されているので番号が分かれば、目当ての歌を楽に探し出せるのも便利。
それから、第1巻から順に読まなくとも各巻単体でも分かるように配慮されているのもよい。
大部の本で読み通すのに時間がかかるが、万葉集のすべての歌を知りたい人には本書が最良である。
当然、研究する人は必読必携。
筆者には印象深い歌が多数あった一書。3首だけ記す。
p.94
志賀の海女は 藻刈り塩焼き 暇なみ 櫛笥の小櫛 取りも見なくに(278)
(しかのあまは めかりしほやき いとまなみ くしげのをぐし とりもみなくに)志賀島の海女は、海藻を刈ったり塩を焼いたりして暇がないので、櫛箱の小櫛、その櫛を手に取って見もしない。
p.177
世間を 何に譬へむ 朝開き 漕ぎ去にし船の 跡なきがごとし(351)
(よのなかを なににたとへむ あさびらき こぎいにしふねの あとなきがごとし)世の中、これをいかなる物に譬えたらよいだろうか。それは、朝早く港を漕ぎ出て消え去って行った船の、その跡が何もないようなものなのだ。
p.345
君待つと 我が恋ひ居れば 我がやどの 簾動かし 秋の風吹く(488)
(きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく)あの方のおいでを待って恋い焦がれていると、折しも家の戸口のすだれをさやさやと動かして秋の風が吹く。
[関連]
『萬葉集釋注二 巻第三・巻第四』伊藤博(1996・集英社)単行本、定価:12,815円(税込)
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[参考]
『新版 万葉集 現代語訳付き』伊藤博(角川ソフィア文庫)(全4巻)
『万葉集 全訳注原文付』中西進(講談社文庫)(全4巻+別巻1)