1939年初版発行
114頁
1593(文禄2)年にイエズス会天草学林にて刊行されたローマ字綴の日本文イソップ物語を新村出氏の手によって漢字仮名交り文に翻刻したもの.伊曾保物語は西洋文学を日本語に移した最初のものであり,桃山時代京阪地方の口語を基調とした文体,語法,語彙,発音など,国語史・国語学研究の上で貴重な資料となっている.
出典:岩波書店公式サイト
本書は、安土桃山時代にローマ字綴りで訳された「イソップ寓話」。日本語に翻字されている。訳や注はなく本文のみ。
『万治絵入本 伊曾保物語』と同じく前半は、イソップの伝記風の「物語」で、後半は寓話という構成。
昔の口語の文体がなかなか興味深いが、筆者は『万治絵入本~』をおすすめする。本書を読むにしても先に『万治絵入本~』を読むのがよいだろう。
なお、芥川龍之介がこの書の文体を真似て作品を書いている(下記参照)。
本書の出だし(p.9)(新漢字に改める)
エウローパのうちフリヂヤとふ国のトロヤという城里の近辺にアモニヤといふ里がおぢやる。その里に名をばイソポというて、異形不思議な人体がおぢやつたが、その時代エウローパの天下にこの人にまさつて醜いものもおりなかつたと聞えた。まづ首は尖り、眼は窄うしかも出て眸のさきは平かに、両の頬は垂れ、頸はゆがみ、たけは低う、横ばりに、背は屈み、腹は腫れ、垂れでて、ことばは吃りでおぢやつた。これらの姿をもつて醜いこと天下無双であつたごとく、知恵の長けたものもこの人に並ぶことはおりなかつた。
『万治絵入本 伊曾保物語』の出だし(p.19)。
さる程に、エウロウパのうち、ヒリジヤの国トロヤといふ所に、アモニヤといふ里あり。その里に伊曾保といふ人ありけり。その時代、エウロウパの国中に、かほどみにくき人なし。その故は、頭は常の頭に二つがさあり。眼の玉つはぐみ出で、その先平らかなり。顏かたち、色黑く、兩の頰うなだれ、首ゆがみ、背低く、足長くして太し。背かゞまり、腹ふくれ出て、まがりれり。物いふ事おもしろきなり。その時代、このイソポ、人にすぐれて見苦しく、きたなき人なり。されども、才覚、又並ぶ人なし。
[関連・参考]
『万治絵入本 伊曾保物語』(岩波文庫)
「きりしとほろ上人伝」芥川龍之介
青空文庫