『「戦前」の正体―愛国と神話の日本近現代史』辻田真佐憲(講談社現代新書)
2023年5月20日第1刷発行
298頁
目次(収録作品)
第1章 古代日本を取り戻す―明治維新と神武天皇リバイバル
第2章 特別な国であるべし―憲法と道徳は天照大神より
第3章 三韓征伐を再現せよ―神裔たちの日清・日露戦争
第4章 天皇は万国の大君である―天地開闢から世界征服へ
第5章 米英を撃ちてし止まむ―八紘一宇と大東亜戦争
第6章 教養としての戦前―新しい国民的物語のために
著者は、著述家・評論家。
本書は、大づかみに言うと、ナショナリズムのために天皇、記紀神話が利用され、そこには「デマ」がかなり含まれていたと論じている。
大筋において著者の指摘は、間違ってはいないと思うが、本書だけを読むとわが国だけがこのような「欺瞞」を行っていたのだと勘違いしてしまう人がいるのではないかと危惧される(実際、レビューを読むとそう思っている人がやはりいた)。
国民国家を統一するには「物語」が必要で、外国でも同じようなことを行っている。本書でも、フランス、イギリス、ドイツなどでも古代の英雄を持ち上げたことを述べているが(p.57)、これだけでは不十分である。外国における「物語」もある程度、説明した方がよかった。
昭和天皇が終戦間際に三種の神器を保つことができるかを心配したことに触れ(p.265~)、
「なんと昭和天皇は、国民の生命ではなく三種の神器のために講和の必要を訴えているのだ。」
と論じるているが、見当違いに過ぎる。国民の命のことは考慮しているに決まっている。もし、それを考えずに三種の神器だけが守られればいいのなら三種の神器を携え亡命すればよい。昭和天皇は、そんなことは微塵も考えていなかったであろうと筆者は思う。