『どう映っているか日本の姿―世界の教科書から』NHK取材班(日本放送出版協会)
1984年
261頁
目次(収録作品)
プロローグ 日本を映す鏡
1 経済大国・日本のイメージ
2 新ご三家「シンカンセン、コーガイ、オシヤ」
3 日本人と会社
4 日本人の信条と暮らし
5 共産圏から見た日本
6 アメリカから見た日本
7 ヨーロッパから見た日本
8 太平洋戦争はどう記述されているか
9 太平洋戦争はどう教えられているか
10 相互理解と教科書
エピソード 心を閉ざす日本社会
本書は、NHK特集「どう映っているか日本の姿―世界の教科書から」(1983年放送)と同「太平洋戦争はどう教えられているか―東南アジアの教科書から」(同年放送)のテレビ番組を制作するにあたっての取材をもとに書籍となしたもの。
ソ連、アメリカ、ヨーロッパ各国、アジア各国の教科書で、日本がどう記述され、学校の授業で教えられているかを調査し、日本の姿を浮き彫りしようというユニークな視点の本である。
上記の観点の通り、あくまでその国の教科書ではどう記述されているかを客観的にレポートしているのはよいのだが、各国の記述は虚実が入り交じっている。一般的な教養程度で、その虚実が判別できるのならよいが、かなり近現代の歴史に詳しい人でないと、それらを判別できないと思う。なので、明らかな事実誤認には、注を付するべきであった。
いくつか具体例を指摘する。
(p.149)「[日本軍は]焼き光(つく)し、殺し光し、奪い光す『三光』政策を実行した。」
三光政策(三光作戦)というものは存在しない。
(p.162)「[日本帝国]はわれわれ(韓国人)の姓名さえ日本語に直すように強要した」
「創氏改名」のことだが、日本風の名に変えるのを強要・強制してはいない。(これについては複雑なので、Wikipedia を参照されたし。)
(p.236)女子挺身隊の一部が慰安婦にさせられ、それを拒否すると懲役刑に処した。
そんな事実は筆者の知る限りない。
特に近現代史に詳しくはない筆者でも、上記のほかにも多数の事実誤認を認めた。こういった明らかな事実誤認に注をしないのは、客観を装った不誠実であると筆者は断じる。
それから、日本の歴史教科書の記述が「日本軍が『侵略』とあったのが、文部省の検定で『進出』改めさせられた」という新聞報道に端を発する「歴史教科書問題」について、本書でも言及されている箇所が散見されるが、そもそもこの新聞報道は誤報であったという説明がない。この説明がないと、その事実を知らない人は多くの誤解をもつに違いない。本書全体の論述ぶりから見て筆者は意図的に書いていないのだと推測する。
また、第10章相互理解と教科書の韓国の節(p.229-p.241)、これは酷い。この節だけ異様といってもよい。著しく反日に偏っていて、しかも多く事実に反することを前提にしているので、それを説明しなくては多大な誤解を招く。
よい観点の労作であるのに残念な所が多い一書である。
[筆者注]
(p.149)
「一九三一年の満州事変から太平洋戦争の終結まで、足かけ十五年にわたって対日戦争をつづけた中国(略)」
日中戦争(支那事変)は、1937年の盧溝橋事件に始まり、1945年8月の日本の降伏までの8年間とするのが一般的である。日本の教科書でもそのようになっているはずである。また。満洲事変から日本の降伏までは15年ではなく、約14年間である。
(p.186)
「首都クアラルンプールから東南にむけて車でおよそ二時間。ジェルブゥの中国人村に着いた。」
「ジェルブゥ」は、ジョホールのことか。