改版2003年
240頁
中学生くらいから大人までの鑑賞に堪える漱石の名作。
巧みに計算された構造を持っている。ただ読めば「痛快青春小説」として楽しく読め、批判力のある者には「坊っちゃん的なもの」を風刺し、皮肉っているのを読み取れるよう作られている。批評の目をさりげなく仕組んでおいて、かつおもしろく読める作品に作り上げているのがすごい。
なので、若いときに読んだ人は、十年後、二十年後に読み返すと印象がとても変わる作品だと思う。
坊っちゃんは、言ってみれば敗れたのである(もっと言えば、土俵にも立てなかったと言ってよい)。本人は正義の徒とでも思っているのだろうが、結局は特に何も成していない。彼にその自覚、反省はない。そしてその自覚、反省のなさを、「坊っちゃん的なもの」を漱石は、読者につまり日本人に提示している。それは一言で言えば「幼さ」であろう。
本作品のタイトルは『坊っちゃん』である。
[関連]
『坊っちゃん』夏目漱石(改版1989・岩波文庫)